性欲の塊になった俺がみんなを妊娠させながらフランスを目指すSF

機械男

第1話 性欲の塊、妹を妊娠させる!

 妹が妊娠した。

 父親はもちろん俺だ。

 高校2年になって性欲の塊となった俺はある日のこと、生足をさらけ出しながら漫画を読んで寝転ぶ妹に、突然ムラッと来て収まりがつかなくなってしまったのだ。

 妹はまだ小学5年生だというのにそのお腹を徐々に大きくしている。低年齢妊娠は本来なら母体への負荷などを考えると大変な事態だったが、俺が特異体質であることに加えて、近年の医療技術の進歩のためにまったく危険なく子供を出産できるというのだからまだ幸いだった。

 ただひたすらに謝る俺に妹は病人を哀れむような目をしながら慰めてくれた。

「しょうがないよ、おにい。だってお兄は性欲の塊だもん」


 もちろん俺の両親は俺を追い出すと宣言して、親父なんて俺の上に乗ってその手が出血するほど俺を殴った。家の奥から持ってきた金属バットで殴打された時はさすがに意識が飛んだ。母さんはただただ妹が妊娠してしまったことに泣いていた。

「あんたなんてもう家の子じゃない!出て行きなさい!」

 そう言われた俺はさすがにちょっとショックを隠しきれなかったが、妹に性欲の矛先を向けた時点で俺が悪いのだ。俺はちょっと泣きそうになったが堪えて家を出ていくことにした。

 高校生でどこか一人で住むあてなんてもちろんない。バイトをしながら暮らす?学校に行きながら?そもそも俺を雇ってくれるバイトはあるのか?いろんなこの先のことを考えると、俺はまだ子供で社会に出てやっていけるかどうかなんて分からない半人前なんだということに気づく。だが俺は妹のためにも出ていかなければならないのだ。

 やはり親の言う通り、国を出ていくしか道はないだろう。


「お兄・・・。本当に出て行っちゃうの・・・?」

 荷物をまとめて玄関から出ていこうとしていた背後から妹の声が聞こえる。振り返ることはできない。きっと顔を見たら泣いてしまうから。

「俺がいない方がきっとお前も幸せに暮らせる。一緒に暮らしてたらもしかしたらまた妊娠させちまうかもしれないから」

 そう言って玄関の取っ手を掴む俺を妹が後ろから抱きしめてきた。まだまだ小さい妹では抱きついて両腕を回すこともできない。その小さな体に余計に俺は罪悪感が増してしまう。

「いっちゃやだよ、お兄。お兄があたしのこと傷つけたかったわけじゃないの何て分かってるから・・・。あたし1人じゃ子育てなんてできないよ」

 妹の声には既に嗚咽が混じっていた。鼻をすする音が聞こえるが俺はやはり振り向く分けにはいかなかった。

「安心しろ。父さんと母さんがきっとフォローしてくれる。俺とお前を育ててくれたのもあの二人だぞ」

「そうじゃない。そうじゃないよ!分かってるでしょお兄ちゃんだって・・・。あたしはお兄ちゃんがいないと!」

 いつの間にかお兄から昔の呼び方であるお兄ちゃんに戻っている妹。友達に馬鹿にされたとかでお兄に呼び方を変えたのはいつの頃だっただろうか。

 気づけば俺も泣いていた。どうしても妹と別れたくない。そう、


「あたしもつれてってよ」


 突然の妹の発言に俺は慌てて振り向く。妹の肩を掴み、大きな声で叫ぶように話しかける。

「お、お前何を言ってるのか分かってるのか!?俺は今からフランスへ行かなきゃならない。しかもただフランスに行くんじゃない。正規ルートは使えないから気付かれないように密航しなきゃいけないんだ!これがどんだけ危険なことかお前も分かってるだろ!?」

「わ、わかってるよ!でも、お兄と離れるなんて嫌なの!連れてってくれなかったら今すぐに警察にお兄に妊娠させられたって言っちゃうんだから!」


 俺は妹の目を見てはっとする。妹はその目に大量の涙を貯めていた。本当に旅についてくるつもりの目だ。


「あたし。お兄の子供ができちゃったこと。少しぐらいしか後悔してないよ。学校にいけなくなっちゃうかもしれないのはちょっと残念だけど、お兄との子供だったらあたし・・・」


──────────お兄ちゃんのお嫁さんになってあげる!───────────────


 不意に俺の頭の中に、まだ幼かった妹の姿がよぎる。あれから数年が立った今も、妹はその心の中で俺という存在に特別な意味を持ってくれていた。

 俺の心臓がより強い鼓動を打つのがわかる。全身が緊張をして汗を発している。


「だからお兄、あたしを・・・。私を連れていってください」


 限界だった。

 俺は急いで背後のドアノブをに手をかけると急いで玄関を飛び出す。

 背中では「お兄!」と叫ぶ声が聞こえるが、おれは一心不乱に道路に飛び出すとそのまま性欲の塊となった体を急上昇させて飛び立つ。1m50cmの球体となってから、飛行訓練をかかさず続けていた俺にとっては鳥と同じ速度で飛行するぐらいはわけなかった。

 街はどんどんと小さくなり、家々がミニチュアのように小さくみえるほど高くまで上昇した頃、振り返ると未だに妹はこちらの様子を見ているようだった。点のように小さくなった彼女の姿が確かに確認できた。

 あのまま妹と話していたら俺は彼女をきっと連れ出してしまっていただろう。そうなれば彼女も危険だ。これから先の逃避行に幼い妹を連れていくわけには行かない。彼女の幸せを考えればなおさらだった。さらに言えば性欲の塊である俺はあれ以上妹と一緒にいたら

、またなにをしでかすか分からなかった。

「ごめんな」

 俺はそう呟くと飛行持続限界が訪れる前に、降りて休むことができそうな場所を探すことにした。

 夜の街の空は冷える風が肌を刺すようだった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 西暦2116年。人類の歴史も2000年を越えて何事もなく順調に発展を極めるかと思った矢先に

 史上最悪のウイルステロ教団微光教。100年以上もの間、テロをもくろみ日本の地下で新たなウイルスの製作・研究に励んでいた彼らがついに、その成果物を全世界に向けてばらまいたのである。

 彼らの作成したウイルスは通常のウイルスと異なり、感染することで人類の改造を行うことを目的としていた。

 そのウイルスの代表的な物の一つが妊娠球体型ウイルス(通称、PBV)だった。PBVは感染をすると感染宿主の肉体を徐々に奇形化させて、1m~2mの球体状の肉の塊へ変貌させる。通称、性欲の塊と呼ばれるその形状には触手上の手足以外の突起物は一切存在しない。体が球体となるとその後は2度と戻ることはできない。治療法はない。

 体液の粘膜への接触によって感染が拡大するとされたが、体の変形が始まるまでの潜伏期間が長いため感染者は気づかずに次々と感染を拡大させるケースが後を立たない。それゆえに一向にウイルスの流行は収束にみえる気配を見せなかった。

 性欲の塊となった者は、性欲が一層激しくなると同時にある特殊能力に目覚める。性的接触を一切もたずに女性を妊娠させる、遠隔妊娠光源の獲得だ。彼ら感染者は一定レベルの性欲がたまると、その表皮細胞の上に新たに作られた特殊細胞の光源から遠隔妊娠光を照射する。その光を浴びた女性は性的接触をせずに妊娠をしてしまうのだ。遠隔妊娠光に載せた遺伝子情報を直接女性に送ることで、精子を用いずとも遺伝子の交換ができるようになったのだ。

 さらに厄介なことに遠隔妊娠光によって生まれた子供を堕胎しようとすると高確率で母子が危篤状態に陥ることが知られていた。


 微光教のまいた数々の危険ウイルスはPBVウイルスだけにとどまらず、大量の死者を出す物、空気感染能力の非常に高い物などなど1000種類以上に渡った。その全容を解明することはあと200年以上もかかると言われている。

 そこで政府は現在、未だ隠された脅威を持つ可能性のある微光教のウイルス感染被害を減らすために、全てのウイルス感染者は隔離施設においてとした強制収容政策を行っている。強制収容政策が成されてから長い年月がたつが、この隔離施設に収容されてから外に出てきた者は現在まで一人たりともいなかった。

 

 妹を妊娠させたPBV感染者で高校生の風間亮太かざまりょうたもまた、当初は隔離施設に入れられる予定であったが彼の両親が見せた最後の情けによって強制収容の手が伸びる前に家を出ることとなった。

 彼の目指す先は強制収容政策を一切行っていない、フランス。唯一の人権重視政策をとって、効率重視の世界政府連合を脱退したかの国に安住の可能性を見ていたのだ。

 「PBV感染者にも人権を」

 そういったメッセージがフランスの公式ホームページに大きく載っていた。


 かくして性欲の塊となった風間の旅が始まることとなった。










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