実験2-3

源氏物語=

いづれの御時(おほんとき)にか、女御(にようご)・更衣あまた候(さぶら)ひたまひける中に、いとやむごとなき際(きは)にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。


 初めよりわれはと思ひ上がりたまへる御方々、めざましきものにおとしめそねみたまふ。同じほど、それより下臈(げらふ)の更衣たちは、まして安からず。朝夕の宮仕へにつけても、人の心をのみ動かし恨みを負ふ積もりにやありけむ、いとあつしくなりゆき、もの心細げに里がちなるを、いよいよ飽かずあはれなるものに思ほして、人のそしりをもえはばからせたまはず、世のためしにもなりぬべき御もてなしなり。


 上達部(かんだちめ)・上人(うへびと)なども、あいなく目をそばめつつ、いとまばゆき人の御おぼえなり。唐土(もろこし)にも、かかることの起こりにこそ、世も乱れ悪(あ)しかりけれと、やうやう天(あめ)の下にもあぢきなう、人のもて悩みぐさになりて、楊貴妃(やうきひ)の例(ためし)も引き出でつべくなりゆくに、いとはしたなきこと多かれど、かたじけなき御心(みこころ)ばへのたぐひなきを頼みにて交じらひたまふ。


 父の大納言は亡くなりて、母北の方なむ、いにしへの人の由(よし)あるにて、親うち具し、さしあたりて世のおぼえ華やかなる御方々にもいたう劣らず、何事の儀式をももてなしたまひけれど、とりたててはかばかしき後見(うしろみ)しなければ、事ある時は、なほよりどころなく心細げなり。

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