春の襲撃編 6
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(誰かに尾行されているな)
生徒会室に寄った後の家までの帰り道。
蒼翔は後ろでコソコソ附いてきている者に気づいていた。学校内からだったから恐らくは《剣魔士学校『第1生』》の生徒だろう。
下手くそな尾行なのでその姿を目撃したが、大人であり、腰ぐらいまで髪を伸ばしており、白衣の女性。顔までは良く見えなかったのでわからなかったのだが、恐らくは教師だろう。見覚えのない顔なのでそうかどうかわからないが。もしかしたらスパイかもしれない。まぁだとしたら尾行はもっとうまいが。
攻撃してくる様子もないし、誰かに危害を加えることもないので放っておいても問題は無いが。
蒼翔は緋里にボソッと「附いてこい」と言って、すぐそこの角を曲がった。
女は見失うと思い、慌ててそれを追いかけて角を曲がる。
だが、刈星蒼翔という少年とその姉の姿はなかった。この先は一本道なのでいくら『想力分子』を使おうとも見失うことはない。
つまり。
女は右の壁に指を向ける。
「刈星蒼翔君だね」
だが。
「こっちですが……」
「ギクッ……」
女は肩を震わせて声のした後ろを振り向く。
そこには刈星蒼翔と刈星緋里が立っていた。
「や、やぁ……」
「間違いを認めるのも大事ですよ」
「はいすみませんでした」
蒼翔はこのフレンドリーな女に不信感を持った。最初から持ってはいたが。
「それで?あなたは《剣魔士学校『第1生』》の教師ですか?」
「……そうだ。私は《剣魔士学校『第1生』》保健師担当、
(名前といい外見といい、ロシア系のハーフか)
金髪で腰まで伸ばしており、似合った眼鏡をして白衣を着ている。瞳は黒く、そこは日本人なんだな、と思った。口調といい雰囲気といい、何処かしら男っぽい。あと巨乳。
胡散臭いが学校内から附いてきているので間違いはないだろう。
現在でも外国との行き来はできるが、昔より一層厳しくなった。
まず持ち物検査。
機械を通して見たあとに、バッグを開けて中身を肉眼で確認する。そのあと金属探知機で徹底的に、隅から隅までくまなく検査する。
人体の検査。
金属探知機でくまなく検査したあと、手探りで体中を触りまくって検査する。
最後に偽名をとか戸籍を偽っていないのか、徹底的に検査する。
前よりも時間はかかるが、これにより空港での犯罪は少なくなっている。効果はあるので、やめる理由もない。
恋というのはそんな厳しい検査でも突破できるものだ。多分、それで生まれたのだろう。
外国人というのはフレンドリーがモットーなのだろうか?
「その保健の先生が自分達に何の用で?用があるならコソコソ隠れずに話しかけてくだされば――」
「――いや、別に君達の本当の力を見たくてストーカーしてたとか、どんな秘密を持っているのだろう、家で2人はイチャイチャしているのだろうかと思ってストーカーしていたわけではない」
「つまり、先生はストーカーということですか」
「何でわかった!?」
「今あなたが自分でおっしゃったんですが……」
ものすごい古臭いボケをカマしてくる先生。こういうボケは21世紀の前半2、3年流行っただけであり、今となってはもうほとんどの人が知らない。芸人でも知らない奴が多いはずだ。
「見つかってしまっては意味ないね。今日はここで切り上げるとするよ」
「今後ともやめて頂きたいんですか……それよりも」
蒼翔が手を曲がってきた角に向ける。そしてその手に『剣』が現れる。
鋼色の日本刀。鋭く輝かしく、古来の侍が使っていた刀に似ている。
緋里とミイナが「何をしているんだろう?」と思った刹那、その『剣』が曲がり角の地面に突き刺さる。カキーンと突き刺さる音とともに、曲がり角から「ヒッ!」という男の声が聞こえてきた。
そこでようやく理解した緋里が冷静さを取り戻す。
冷静さを取り戻した緋里は、男達が逃げ出したため『想力分子』で四方を壁で塞ぎ、動きを止める。
だが、相手もそれで動揺する
壁を四方に作るということは、それなりの『想力分子』を必要とする。つまり、1つ1つの壁が簡単に崩れるということだ。
男達はそれに気付き、『想力分子』の塊をその壁にぶつける。見事に崩れて、空中で消え去る。
緋里は驚きもしない。緋里だってそうなることはわかっていた。これは単なる足止めであり。
「お前らの目的は何だ?」
壁が消えた目の前には、蒼翔が剣を構えて立っていた。
緋里は単なる蒼翔のアシスト役であり、直接手を下すのは蒼翔だ。
この壁が出来て壁が壊れるほんの数秒の間に、蒼翔は地面に突き刺さった剣を抜き、男達の逃げる進行方向で待ち構えたのだ。
「どうやらずっと附けていたようだが?」
「くっ……!」
蒼翔の質問に男達は答える気はないようだ。
蒼翔は最初からわかっていた。《剣魔士学校『第1生』》の門からずっと、蒼翔達の後ろ、ミイナの後ろを附けていたことを。
辺り一帯の地面が魔法陣へと変わる。いや、正しく言うなら変わったのではなく、地面の上に魔法陣が現れた、だが。
蒼翔にはそれが何かわかった。
『想力分子』による魔法の発動。
魔法名『
この魔法陣はかなり大きく、周りの家まで巻き込むことになる。つまり、犠牲者が出るということだ。そんなことはさせたくない。
だが、今の蒼翔にこの魔法陣を、『想力分子』を消すことはできない。つまりは、これを防ぐためにはこの魔法陣をキャンセルさせる必要がある、もしくは規模を小さくさせなければならない。
(後で謝りに行けばいいか……)
そう心の中で呟くと、手に持っていた『剣』を消して『想力分子』を補充する。
そして、相手の魔法陣が出来て爆発する寸前。
男達の足下に魔法陣が現れ、男達の魔法陣が爆発する前に、足下の魔法陣が爆発した。
男達の魔法陣はその爆発によりキャンセルされ、爆発することなく消え去った。
爆発したのは地面の上ではなく地面の中。そう、これが本来の『地雷』というやつだろう。
地面の中で爆発しただけであり、多少のダメージは負うだろうが死にまでは至らない。
これしか方法が思いつかなかった。いや、これが2番目に妥当な防ぎ方だろう。1番は勿論、その魔法陣を直接キャンセルさせること。普通なら出来たのだが、今の蒼翔にはそれができないため、その方法は捨てた。
地面がヒビ割れ、蜘蛛の巣のように広がっていく。
そんな中だんだんと煙が消え去ったところには、男達(3人)が倒れ込んでいた。
蒼翔は男達に近づき、再度問う。
「お前らの目的はなんだ?ただの緋里のストーカーではないだろう?」
「……」
男達に意識はあるのだが、やはり答えてはくれない。
と、1人が立ち上がり手を胸に当てながら叫ぶ。
「我々は『バダリスダン』である!この腐った日本から『教師』を消す!それが我々の『神』の御教えだ!お前も《劣等生》ならわかるだろう!?差別やいじめを無くせとか言っている教師こそが、その差別といじめの主犯ではないのか!?教師というものはこの日本にはいらない!それを重宝とする日本なんて腐っている!」
思った通りの腐った男達だった。
『バダリスダン』とはまぁ神は適当な名前をつけたものだ。どうせつけるならもっとその組織をイメージさせる名前にして欲しいのだが、そんなことを言えるわけはなく。
多分だが、こいつらは
日本が腐っているとは少し言い過ぎではないだろうか。日本は腐ってなんていない――いや、多少は腐っていると思うが。
そもそも蒼翔は《優等生》であるからその気持ちはわからない。
「……お前らは誰から教わっている?なぜ《劣等生》なのにそこまでの『想力分子』を?」
「これは神から頂いた力だ!お前もきっと貰える!だから――」
「すまないがそういう戯言は身内だけでやってくれないか?」
「な……!?」
「俺は別に教師に不満はないし、日本が完全に腐っているとは思っていない。お前らとは考え方が違うようだ。他を当たってくれないか?」
「この……!」
刹那、男の首に剣先が触れる。
何処から現れたのかわからない、いきなり首元に出現した謎の剣。主は蒼翔。
声にならない悲鳴を上げる男。
「これ以上俺達に関わるな。そして日本を侮辱するな。さもなくば――殺すぞ」
「な……」
その恐ろしい無表情の顔は、誰がどう見ても無表情だが怒っているように見える。
ジワジワと流れ落ちる男の血。
男はあまりにもの恐怖にその場を逃げ出した。それに続き残りの男達も逃げ出していく。
残された3人は男達が見えなくなるまで見ていた。
蒼翔が剣を消す。
「……どうやらストーカーされていたのは先生でしたね。自分達のストーカーするよりも、外出には少し気をつけた方がいいかもしれません。多分また狙ってきます」
「いやー気づかなかったなー。すごいな蒼翔君は……まるで《優等生》のように見えてくるよ」
「……」
一瞬バレたのかと思ったが、どうやら違ったようだ。だが、これからは少し抑えた方がいいのかもしれない。今度からは緋里に任せるべき、だと蒼翔は思った。
と、ウィンウィンとサイレンのようなものが聞こえてくる。
(警察か……後で謝りに行かないといけないな……)
蒼翔はそう思いつつ警察が来るのを待った。
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