第三部【佐藤の試練】

プロローグ『予言者』

 猫は一日の半分は眠ると言われるが、もし猫に不眠症というものがあるとするならシースルーはまさしくそれであった。


 常に眠そうに微睡まどろんではいるのだが生まれてこのかた渡り鳥やキリンのように脳の半分が寝て半分が起きている“半球睡眠”のような生活を常に送っている。ただ、一度の眠りがとても深く、日に二時間ほど訪れるまとまった睡眠時間の後に彼の予知能力は活発さを増すことが多かった。


 ボスであるザンパノの危険を予見した、


①“鳥の名を持つものがあなたを押し潰す”


 という予言も、その危険を回避するための


②“第三の目を持つ猫が訪れるのを待て”


 という予言も、その深い眠りの最中にお告げのように夢の中に現れてきたものである。


 経験上、おそらく今回も的中率は高い。


 ただし、②の予言が現実になれば①の予言は外れることになり、①の予言が当たるのであれば、②の予言の存在価値がわからない。


 シースルーは考えた。いわば彼の頭は将棋をさす棋士のそれに似ていた。


 相手が打ってくる一手から様々な未来を予測し頭の中で最善の“棋譜きふ”を練り上げる。


 ただ ──


『それとは別に、今回の予言には何か得体の知れない“異物”が混じっている…… 』


 シースルーはそうも感じていた。ザンパノにこそ伝えてはいないが、ここ二三か月の間で、本来 “あるはずのないもの” が突如混入し未来が急激に揺らぎ始めているのを。


 その“異物”の正体をつきとめないことにはこの勝負はどちらに転んでもおかしくはない。恐れや不安というよりむしろ、シースルーは久しぶりに強敵に出会った時のような高揚感を覚えて、ぶるりと武者震いをした。

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