金も女もくれてやる。それで世界を救ってみせろ
木島別弥(旧:へげぞぞ)
第1話
気が付くと、少年は見知らぬ土地にいた。今までの自分が何であったのか、今までの自分がどこにいたのかすらはっきりわからない。ただ、少年は、ここが異世界だということだけには気付いたのだった。こんなところは、もとの世界にはない。
少年は聞いた。
「世界の中心には、須弥山があって、そこに帝釈天さまが住んでおられる。わしらはみんな、帝釈天さまの恵んでくれる慈悲によって生かされているのだ」
と。なぜ、少年たちは帝釈天に捧げものをして暮らさなければならないのか。なぜ、少年たちは帝釈天を崇めて暮らさなければならないのか。人はみな平等ではないのか。それに疑問をもった少年は、世界の中心の須弥山まで旅をしてみることにした。
剣を一本。あとは路銀を懐に入れて、少年は始まりの土地から出かけることにした。
まず、ここはどこなのだろう。少年は村娘に聞いた。すると、答えがある。
「ここは高天が原です。天照あまてらすさまが毎日、朝になると、ここから世界の空を西に向かって渡ります。天照さまが西まで行き終わると昼が終わり、世界の裏側を通って、この高天が原に戻ってきます。天照さまがここにいる間は、世界は夜になります。今は、まだ天照さまがいらっしゃいますので、世界は夜でございます」
それならば、一度、天照さまにでも会ってみようかと少年は、天照の住む太陽宮殿へと歩いた。
高天が原はのどかな所だった。特に、もめごととか争いはないところらしく、住人はみんな仲良く暮らしていた。
そこへ、剣を持った少年が眼光鋭く睨みを効かせながら歩いているのだから、高天が原の住人は何ごとかといぶかしがった。
高天が原につくと、八百万の神々がいて少年に語りかけてきた。
「太陽宮殿に参拝かな? 天照さまはたいそうお美しいございますから、お目にかかりたいのもわからないのではないのですが」
八百万の神々は、厚い服を着て、仮面をかぶり、決して肌を他人に見せない人々だった。
「ぼくは、なぜ、ぼくたちが天照さまや帝釈天さまを敬い暮らさなければならないのかわからないのです。ですから、天照さまが敬うに足りる人物かどうかを確かめに来ました」
少年がそういうと、八百万の神の一人は答えた。
「うむ、きみの名前は弐卦にけというのだな。良い名ではないか。当たるも八卦、外れるのも八卦。ならば、弐卦なら、どれだけのことがわかるというのだろう。弐卦とは、占いのまったく新しい新手法であるな」
「え、ぼくの名前がわかるんですか?」
少年が驚いたのも無理はない。なぜ、少年自身が知らない少年の名前をこの神さまは知っているのだろう。
「うむ。閻魔帳を持っているのでな。お主の名前はここに書いてある」
「閻魔帳って何ですか」
「閻魔帳とは、すべての人のすべての罪を書き記した台帳のことだよ。お主が死んだ時に、天国へ行くか地獄へ行くか決めるのに、これを使うんだ。わかったら、くれぐれも悪いことはするんじゃないぞ。閻魔さまはすべてをお見通しだからな」
「天照さまに逆らうのは罪ですか?」
少年の問いに八百万の神は驚いた。
「そりゃ、天照さまに逆らうのは大逆の罪だ。死刑はまちがいないな」
「なぜ、天照さまはそのような特権にあずかっておられるのですか」
「それは、見ればわかるじゃろう。天照さまは太陽だ。太陽がなければ、昼でも寒いし、作物も育たない。太陽である天照さまを敬うのは当然ではないか」
「まあ、ぼくも太陽はありがたいものだとは思っているのだけれど」
そして、少年は、太陽宮殿へと入って行った。
太陽宮殿の中も、のんびりした雰囲気で、別に警備兵とか一人もいなかったのだけれど、その理由をたずねると、
「いちばん強い天照さまを警備する意味がない」
ということだった。
天照さまは女性だけど、そんなに強いのかとおっかなびっくり少年がしていたら、天幕が張ってあって、その奥からすごく眩しい光が届いて来た。少年にもすぐわかった。あそこに天照さまがいるのだと。
少年は天照さまに向かって申し上げた。
「ぼく、弐卦は、なぜ自分が神々と対等ではいられないのかという疑問に天照さまに答えてもらうためにやってきました」
すると、天幕が上がった。眩しい輝く肌をした美女がいて、悲しそうに答えた。
「弐卦や。これにはわけがあるのです。ですが、そのわけを教えるわけにはいきません」
「いちばん偉い神さまは、帝釈天なんでしょ」
「いいえ。神々にも好き嫌いがあって、必ずしも誰がいちばん偉いとか決まっているわけではありません。ですが、地上では、帝釈天がいちばん捧げものをもらっていますね」
「神々が地上の人々を操って、好き放題遊んでいるんでしょ」
「そうですね。わたしは高天が原にいて、好きなように東の国を操って遊んでいますね」
「なぜ、そんなことができるのですか?」
少年の疑問に天照ははっきりと答えた。
「洗脳できるからです。地上の人々は、天界より遥かに少ない情報しか持っていないため、簡単に操られてしまうのです」
「その情報機関を地上に明け渡すべきではないですか?」
「そういう考えの神もいます。須弥山のそばにある極楽浄土に住んでいる法蔵菩薩とかですね。彼は人と神の区別をつかなくするように努力しているようです。ですが、そんなことが現実に起こっては、この世界の一大事です」
「なぜ、人と神の区別がつかなくなることがまちがっているのですか。平等の思想からいったら、正しいことのはずじゃないですか」
「平等より大切なことがあるのです。この世界は神によって運営され、神が遊ぶために存在するのです」
弐卦は声を荒げた。
「ぼくはそんなこと絶対に許さない」
天照は冷静に答える。
「ならば、須弥山を登り、帝釈天のところまで行ってみればいいでしょう。そこで世界の理の一端がわかるでしょう」
「よし。ぼくは須弥山を登り、帝釈天に会って来ます」
「御武運を祈っています」
そう天照はいって、弐卦と別れた。
弐卦は、高天が原を出て、須弥山へと旅に出ることにしたのだった。
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