第44話 オカルトチック

紗季が指さした方角に目を向けると


「姉貴が最後に亡くなったマンションに住もう

 と思っているんだ」


ツインマンションの向こう側のマンションだ。


「私一人が住むのにマンション二つもいらな

 いでしょ」


黙ったままの又吉に


「このマンション広すぎるし」


「向こうのマンションと同じ造りだよ」


ツインマンションだから、大きさも部屋の造り

も全く同じだ。


「だって、このマンションにはもう姉貴いない

 もの」


「向こうだって・・・」


又吉は言葉を止めた。

確かに陽子はこのマンションを出て、死ぬため

だけに向こうのマンションに移った。


「向こうには姉貴がいるもの」


明るく笑う紗季に


「何時移るんだい?」


「もう荷物ほとんど向こうに移し終わってるの、

 今日はこの部屋とのお別れパーティーよ」


「えっ・・一人で移したのかい?」


言いながら部屋を見ると、確かにダイニングル

ーム以外閑散としている。

少しづつ荷物が減って行ったので又吉はまったく

気づかなかった。


「大きな荷物は一週間前まとめて移動させたの。

 後はこの部屋の荷物だけ」


「言ってくれたら僕も手伝ったのに」


「ゴメンね。でも、自分だけの手で、全ての

 荷物、ゆっくりと向こうに移したかったの」


寂しそうに紗季は笑った。


「思いでもまるごと、ゆっくり向こうに移しち

 ゃった」


紗季は立ち上がると


「行きましょうか向こうへ、姉貴も待っているだ

 ろうし」


又吉は座ったまま紗季を見上げた。


「大丈夫よ、おかしくなんかなってないから。

 姉貴は本当に向こうにいるのよ、だから行きま

 しょ」


「あ、、ああ」


紗季は又吉の手を取ると、強引に椅子から引き上

げた。


「ふふ、話がオカルトチックになっちゃったかな」


紗季は又吉の手をぐいぐい引っ張り、隣のマンショ

ンに向かった。

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