菱餅投げ祭り

despair

プロローグ

 菱餅投げ。

それは宇宙より与えられし祝福。

 菱餅投げ。

それは地球から放たれし真理。

 菱餅投げ。

それは自然より恵まれし力――。


 今年こんねんも、この菱餅投げを開催できた事。この星々に感謝し、そして祝おうぞ。



 三月三日。毎年、この国の人々は刻一刻と迫るそれを待ち侘び、今か今かと大いに沸き立つ。


 全ての発端は三十三年前の今日。ある小さな町で『雛あられ』を投げるお祭りが試験的に実施された祭りが由来となっている。

 投げる際に使用された雛あられは、円柱型の形をしており、顔に当たっても安全なよう配慮された、まさに投げるのに打って付けな雛あられだと言った訳だ。雛あられを投げるお祭りは、口コミやSNSを通じて全国へと発信された結果、注目の的になった。その結果、雛あられ投げを模倣するようかのように『菱餅』を投げるお祭りが誕生したのだった。菱餅投げ祭りの映像は著名な動画サイトにも投稿され、そのシュールさ極まる光景からネットユーザーの間で注目を集める事となった。

 だがしかし、どちらのお祭りにせよ『食べ物を粗末にするな』と言う苦情がネット内外を問わず噴出した。その苦情に対応すべく、菱餅投げの主催者はある会社に依頼し、菱餅投げ専用の菱餅を発注したのだ。

 最初期に使われていた菱餅はごく普通の菱餅であったが、新しく作られた菱餅投げ専用の菱餅は糯米や木の実等といった食材を一切使わず、『ホウ砂』と『洗濯のり』を主原料としたスライム状の物体を、薄さ数ミリ以下の薄いゴム皮で出来た菱形状の生地で包んだ物が代わりに使われるようになったのだ。因みに、菱餅の中に入っているスライム状の物体は、混じりっけがない程の白色に染まっており、触れるとねちょっとした感触が肌に伝わる。また低温火傷を起こさない程度の熱を保持しており、粘着性もあるが故に触れた部分にこびり付く。恐らく選手のギブアップを早める為に、こういった対策が取られているのだろう――。

 使用する菱餅を変更した甲斐もあってか、そういった苦情は殆ど来なくなり『町を汚すな』等といった参加者のマナーを問う苦情が届く程度に落ち着く事となった。そうした主催者の努力もあり、菱餅投げは全国で流行の兆しを見せ、そして三月三日になると各地で一斉にこのお祭りが催されるようになったのだ。


 菱餅投げのルール。それは至ってシンプルで、老若男女の大多数が楽しめる簡単なルールだ。

 まず始めに、参加者は十個の菱餅を大会スタッフから受け取り、そして各々が自由に会場内を移動する。ただし、移動中は他人に菱餅を投げ付けてはならず、もし相手にぶつけてしまった場合はその時点で失格になってしまう。

全員に菱餅が行き渡ったのを確認した後、大会スタッフが所定箇所に菱餅が大量に入ったバスケットを置き、笛を鳴らす。そうすると、お祭りの始まりだ。

 渡された菱餅を参加者に投げ付け、そしてギブアップさせればいいのだ。たったそれだけのルールなのだ。

――厳密には、もう少し細かなルールがあるのだが、常識としてのルールである為、説明は不要だろう。


 さあ、諸君らも菱餅投げをしてみないか?


 このお話は「ごく普通の学生がひょんな事から菱餅投げ祭りに参加する事になる」と言う話だ。



メモはここで途切れている……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る