(2)



 *


「たのもー」


 ちりんちりんと呼び鈴(字のごとく鈴だ)を鳴らしてしばし待つ。

 が。


「…………」


 返事なし。

 え、あれ、留守?


「もしもーし」


 再度鈴を鳴らす。

 するとようやく「うるさいにゃあ」という声が聞こえてきた。

 察するまでもなく文さんの声だ。


「私ですー東雲めぐみですー」

「めぐみか。にゃんだよー、儂だって忙しいんだよー」


 そうか、忙しいのか、と思いつつそれでも退かない。

 私も忙しい身。

 しかも今後の肉食ボイン嬢との戦いに備えるとなれば……。


「今開けるにゃ」

「はーい」


 ぼんやり玄関前で待つこと三分。

 ガラリと戸が開く。

 そこに彼は現れ――。


「ったく。朝から騒々しい奴にゃ。せっかく銭湯にでも行って気分転換しようと思ったのににゃあ」

「…………」

「お? めぐみ、どうしたにゃ?」

「……文さん、なの?」


 私は呆然としながら彼を見ていた。

 しゃべり方も声も、確かに文さん。

 だが、手拭いと石鹸、紐財布を桶に入れた彼は――。


「この儂が文左衛門以外のなんだっていうんだにゃ」

「強いて言いますと――」


 ――イケメンでございました。


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