読書記録『屍人荘の殺人』(超ネタバレ)
超ネタバレバージョンです。
内容に触れまくるので読んでない方はご注意ください。
これを書こうか悩んだんですが、内容を伏せたまま批判的な意見をこういう場所で述べるのは『アンフェア』だと考えた次第でございます。
もう一つ述べるならば、これはあくまでも小生の感想です。
読者が違うならば感想も異なれば、納得できる箇所も違います。
小説は漫画やアニメとは違い『押し付け型媒体』ではないので、読者の受け取り方一つで作品の内容が大きく違ってしまうのです。どれだけ具体的に書こうとも、確実にズレは存在します。
これから書く内容は『そういうもの』だと思って読みましょう。参考資料みたいなものですヨ。読み返していないので読み間違えている部分もあるかもしれませんし。
では、どぞどぞ。
―――――
まずこの作品は、
『ミステリー小説』
『ホラー小説』
『青春小説』
という三つの要素が交じり合った小説です。
それぞれもう少し具体的に書きますと、
『殺人事件』
『ゾンビパニック』
『主人公とヒロインの交流』
大まかなラインはこの三つになるかと。
この三つの組み合わせを考えたのは素晴らしいと思います。
ですが、この三つの中で成功しているといえる部分はミステリー小説の部分だけで、『後の二つは失敗している』と小生は考えました。
もっとも『ゾンビパニック』に関しては最初から『舞台装置』として割り切って描かれているようにも感じられるので、あくまでもミステリーを引き立てるための要素だったのではないかと思います。
『ホラー要素』は始めから切り捨てられていたのか、ゾンビに囲まれているのに緊張感というものがほとんど感じられない作品でした。登場人物もかなり冷静なので、全体的に淡々と進行していきます。
おそらく『ミステリー作品』としてあまり登場人物にかき回されたくなかったのでしょう。その分『ミステリーの美しさ』は上がりましたが、『物語としての面白さ』は半減してしまったと思います。
『ゾンビという恐怖と戦う中で起きる殺人事件』
『疑心暗鬼に陥りながらも、協力しなければゾンビに殺される状況』
『クローズド・サークル』の良さというのは『恐怖』でもあります。
『犯人』が近くにいるのは分かっている。だけど逃げ場は無い。
その状況で起きる『人間ドラマ』が見所の一つでもあるのですが、残念ながらこの作品にはそれがありません。せっかく『ゾンビ』という恐怖を得たのに、それを十分に活かすことなく物語は終わりを迎えます。
もう一つ付け加えるならば、『ゾンビを舞台装置にする』ならばこの辺りの描写はばっさりとカットした方が良かったと思います。視点主を変えてまで描写したことによって、このシーン自体が『大きな伏線』となってしまいました。
もしかすると『ゾンビが発生した理由と本編の謎とは関係ない』ということは強調したという可能性もありますが、小生は逆の捕らえ方をしましたね。最終的には二つの謎が綺麗に解決されるものだと思ってましたし。
まあ、今回『曖昧に濁された部分』は次回作以降の伏線にするつもりなのかもしれませんが、現段階では『すっきりしないなー』という感想を懐いてしまいます。一作目なのにこの読後感は勿体無い気がしますね。
さて、次の問題となるのが『主人公とヒロインの交流』という『青春小説』の部分ですが、失敗していると言っているわりに小生はこの要素は好きでした。
ネット上では『浮いている』というような意見もありますが、ラノベとか読んでる小生にとっては『二人の会話』は面白かったです。
それなのになぜ失敗しているのかというと、
『主人公のトラウマ』
『ヒロインの動機の弱さ』
『もう一人の役者が早々に退場したこと』
この三つの要素かなーと思います。
『主人公のトラウマ』を理解できないわけではありませんが、共感はできません。『死人の部屋で捜査するのはいいんかい』というツッコミもあります。この辺りが上手く理解できずに、小生の気持ちが主人公から離れる原因となりました。
解決編になった途端に物凄く感情的になったというのも『ぽかーん』という感じでした。これは主人公だけではなく全体的な印象になります。中盤はわりと淡々としているので、このギャップに違和感を感じてしまいました。
『ヒロインの動機の弱さ』というのはネット上でも指摘されていますが、『ヒロインが主人公に固執する理由が弱さ』です。今回はヒロインのことを裏切ってますので、ますます彼に固執する理由が無いように思えます。
むしろ『明智』の方をスカウトすべきだったのではないかと。事件があれば喜んで首を突っ込むのは彼の方です。助手になるかという問題はありますが、二人探偵でも良いわけですから問題は無かったでしょう。
『もう一人の役者が早々に退場した』というのはもちろん『明智』のことです。これによって『探偵と助手』という要素が薄まり、それと同時に主人公とヒロインの関係性も曖昧となってしまいました。
もしかすると生きているかもしれないという『可能性』を匂わせることはできましたが、それよりももっと長く活躍させた方が物語としては面白かったでしょう。途中でゾンビに襲われて退場しても良かったわけですから。
早く退場したことによって『主人公と明智の関係性』も弱くなってしまい、最終的にはゾンビになった彼を見捨てられないほどの関係性だったのかも良く分かりませんでした。
こんな感じで読み終わった後に気になる部分が多かった作品でした。
エピローグもちょっと曖昧な感じで、分かり難かったです。
ミステリーの部分に関しては素晴らしいのですが、そこにもちょっと気になる部分はありました。それは『犯人の動機』です。特に『赤ちゃんが死んだから二回殺した』というのを推測するのは無理かと。
主人公のトラウマと同じでこの辺りもきちんと情報を開示する部分かと。
まあ、一度しか読んでいないので忘れている伏線もあるかもしれませんが。
この小説の『理想系の一つ』としては、『ホラー小説としての要素を取り入れながら、ミステリー小説として全ての謎に答えを示しつつ、探偵と助手というテーマを掘り下げながら、主人公を助手として活躍させつつ、二人の探偵との関係性を描く』という作品だと考察します。
えーと、考えただけで吐き気がするような難しさです(汗)
言うのは簡単なんですけどね。書くのは死ぬわけです(大汗)
まあ、興味がある方は『横読み』をして見ましょう。
『どうすればこの作品の完成度が高まったのだろうか?』
ということを考えるのも良い勉強です。小生の考えだと『ある人物を犯人にする』ことによってある程度の問題は解決できたかと思います。わりと使い古された手法ですが、今回の物語には相応しい展開の一つだと思いました。
難しいのは『ホラー小説とミステリー小説の融合』ですが、あくまでもゾンビを舞台装置として使うならばゾンビを直接ホラーとして使わずに、殺人鬼をホラー要素として流用。人間同士の疑心暗鬼を描きつつ、人の心の善と悪を描く。
あるいは殺人事件そのものを書き換え、トリックはそのままに無差別殺人事件へと変化させるという手段も考えられます。殺される相手が分かってるというのも緊張感がない作品となった理由の一つだったと思いますので。
最終的にはゾンビと無差別殺人鬼の両方から逃げるというダブルホラー。
館が燃えます。全員死にます。そして、誰もいなくなった。
んで、殺人鬼がゾンビになって続く
駄目だな(笑)
こっちはホラーよりの結末ですね。ミステリー小説としての結末を描いたからミステリー小説として評価されたわけです。ホラー大賞ならこっちの方がいいかもしれませんけど。
『屍人荘の殺人』というのは不思議な作品で、普通これだけ駄目な部分があれば面白くないはずなのですが、ぎりぎりのところで面白さをキープしているように感じられるのです。
この感覚は『とある魔術の禁書目録』を読んだときの感覚に近いです。
小説としては駄目な部分が多いんだけど、どうしても惹かれる部分がある。
台詞回しだったり、ところどころの展開だったり、面白くないと言い切れない不思議な魅力があるんですよねー。たぶん本人のセンスだけで書いてるとこういう小説になるような気がします。
今回使用された『トリック』も目新しさはあまりありませんが、そこに『ゾンビ』という要素を加えただけでまるで違うモノに作り変えているのが凄いです。小生も読みながら『ゾンビ』という要素にかなり惑わされました。
『犯行が不可能と思えるような状況を作り出す』
というのがミステリー小説の肝です。
それにきちんとした解決があるというのが最高なんですよね。
この作品に関してはその部分はしっかりと成功しているので、ミステリー小説としての評価は高いと思います。それ以上の作品を作ろうとして失敗したのが『屍人荘の殺人』という作品だったのかと。
おそらくミステリー小説としてだけ完成させようとしていればもっと高い評価になった作品でしょう。
でも、ミステリー小説としてだけ評価が高い作品というのはあまり売れないので、多少失敗していてもこちらの形の方が現代では良いのかもしれません。
次回作も同じ路線だと思われますので、今回より洗練された作品だと個人的にいいなーと思います。まあ、個人的ですから今回と同じような作品でいいという読者もいるでしょう。読者それぞれ。
しかし、次回作で『使われるネタ』はまったく想像できませんね。
怪獣でも出てきたらびっくりしますよ(笑)
でも、びっくりするならミステリー的には正解かもしれません。
恐るべしミステリーの世界です。
<完>
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