19 柔らかく融ける指
柔らかく融ける指
その扉は絶望から出来ていて
普通に開けることはない
けれども扉には玻璃の窓が嵌め込まれていて、覗くと
仮面を被った子供の群れが
夕立のように踊っているのが見える
怖い 怖い 怖い
それはわたしの感情
祭り 祭り 祭り
それはだれかの感傷
ラララララ……
その引戸は偶然から出来ていて
普通はリズムが合わない
けれども引戸にはオシロスコープが仕掛けてあり、覗くと
仮面を被った生者と死者が
隠れ処のように怒っているのが判る
痒い 痒い 痒い
それはあなたの現状
絶えろ 絶えろ 絶えろ
それは自然の現象
ルルルルル……
とにかく追われるようにして目の前にあった梯子を上に上にと昇る。
その間、景色は暗転/明滅を繰り返したが、わたしは、それに気づきもしない。
やがて雲の中からオーバーハングが現れ、そこに扉があったので、わたしは無我夢中でドアを開けて中に入る。
真っ暗だ。
真っ暗で、真っ暗だ。
けれども目を瞑ると気の触れた妖精たちが襲ってくるので瞑ることが出来ない。
でもそれがプラスに作用し、やがて目が暗さに慣れ、わたしは形を見い出す。
そして、わたしは唐突に悟ってしまう。
そこが明日であることを。
明日という名を持つ架空の時空であることを。
架空の時空だから、細部はわたしの空想の思いのまま。
だから、わたしが誰もいないと思えば誰もいず、誰かがいると思えば、そこに誰かが創造される。
わたしの頭の中で声が鳴る。
わたしがそういうヒトでなかったならば、世界に飢えた老人と子供は存在しなかったかもしれない。
わたしの中で声が啼く。
わたしがそういう脳気質でなかったらば、世界は笑いに満ち溢れ、人は死ねばいつまでも尊ばれたかもしれない。
仮定は架空で、そしてまたドアがあり、ノブをまわせば向こうからもグイとまわしてくる気配が感じられる。
わたしはぞっとして身体中がゾワゾワしたが、同時にわたしは知ってもいる。
相手にドアを開けさせてはならない。
決して相手にドアを開けさせてはならず、かつ、わたしが一番にドアを開けねばならないことを。
さもなければ世界は永遠にわたしから奪い取られ、悠久の期間に渡り、何処でもない場所になってしまうからだ。ああ……。
その世界は誘惑から出来ていて
普通は人間がいない
けれども世界には神様がウロウロと彷徨い、願うと
仮面を被った信徒と使途が
音楽のように湧き出て来るのがウザい
憎め 憎め 憎め
それがこの世の生業
愛せ 愛せ 愛せ
それがわたしの非意識
ふふふふふ……
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