第79話 来校! 未来の学び舎と現在の少女 (Bパート)
「翠華さん、バレーできるんですね」
「かなみさんと一緒で体育でちょっとね」
「即戦力って言ってましたよ、あの人」
「あの娘、言うことが大げさだから」
翠華は苦笑して答える。
「でも翠華さん、運動神経すごくいいですもんね」
敏捷性の勝負だったら、どう考えても翠華に軍配が上がる。それこそ逆立ちしても勝てないぐらいに。
そんな翠華なのだから何かスポーツをすればたちまち活躍できることが容易に想像がつく。
「何かスポーツやらないんですか、もったいないですよ」
「そ、そんなことないわよ。それをいったら、かなみさんだって」
「私は借金がありますから」
かなみこそもったいないと思う。
魔法少女として一緒に戦っていてこの上なく頼もしく感じる。
強大な魔力を存分に活かす判断力、新しい魔法を作り出せるセンス、窮地に陥っても諦めない精神力、どれをとってもスポーツをやっても大活躍できる資質であった。
そういえば、以前ソフトボール部の助っ人をやって大活躍したという話を聞いた。
「借金が無ければ……」
そう言いかけてやめた。
今自分とかなみが過ごせているのは、その借金のおかげなのだ。
なんて、なんて奇妙な巡り合わせなのだろうか。
歳が離れていて同じ教室で勉強できない。同じ高校に通えず、同じ部活をやることもできない。
それでも、魔法少女としてこうして毎日のように顔を合わせて同じ時を過ごせる。
恨めしく思うときもあれば、不思議と感謝するときもある。
(結局、私はかなみさんと一緒にいられたらそれでいいのかしら……?)
たとえ、かなみが借金で苦しんでいたとしても。
そんなことを考えて自己嫌悪に陥っていく。
「翠華さん、次どこ行きますか?」
「そうね……」
かなみの声で我に返る。あくまで平静を装って。
「この先に生徒会室があるんだけど」
「生徒会ですか……どんな人達なんですか?」
「そうね……会長は誠実な人よ」
「翠華さんみたいな人ですね」
「そ、そんなことないわよ! あ、そうね、せっかくだから挨拶しましょう」
「いいですね! 会ってみたいです!!」
かなみは乗り気で答える。
「青木さん!」
そこで男子生徒から呼び止められる。
「池田君?」
「生徒会に何か用?」
「ちょっとね」
「会長に会いたくて」
かなみが代弁する。
「その娘は? 青木さんの妹?」
「いもうと?」
思ってもみなかった問いかけに、翠華は面を食らう。
「後輩です!」
「あ、そうなんだ。来年うちの学校受けるの?」
「それは……考え中です!」
「そうかい。それで青木さん、生徒会に興味が出てきたの?」
「あ、ううん。別の用で寄っただけで生徒会は入るつもりないから」
「そうか……残念だな、青木さん、しっかりしてるから書記か会計をやって欲しいんだけどな」
「ご期待にそえずごめんなさいね」
「いやいや……気が変わったら、いつでも言ってきてね、待ってるから」
池田はそう言う。
「なんだかしつこいですね……」
かなみは翠華にだけ聞こえるように小声で言った。
「え、ええ……」
翠華は苦笑する。
「――あの人、翠華さんのこと好きなんじゃないですか?」
池田が去ってから、かなみは翠華へ言う。
「え、え!? そ、そんなわけないと思うけど!?」
「なんとなくですけど……ちょっとしつこいから」
「し、しつこい……」
かなみが少々疎ましい感じで言うものだから、翠華もドキリとする。そういうところが自分にも少なからずありそうだから。
「翠華さんにはちゃんと彼氏がいるんですからはっきり言っておいた方がいいですよ」
「え、え……そそ、そうね……!?」
翠華は全身を震わせながら答える。
かなみは自分が何か変なこと言ったのか、と首を傾げる。
「あ、もしかして、翠華さんの彼氏って生徒会長さんですか?」
そして、見当はずれの結論を導き出す。
(なんでそうなるのぉぉぉぉぉぉぉ!?)
翠華は弱り果てた顔をしつつ、心中で嘆きを叫ぶ。
「これは是非とも会いたいですね!」
かなみは勘違いしたまま、大いに張り切る。
「あ、あのね、かなみさん……そうじゃなくて、そもそも会長は……!」
「翠華さん! 是非紹介してください!」
翠華が言い切る前に、かなみは先に言ってしまう。
「う、うん……」
結局、翠華は口答えせず首肯してしまう。
その流れで生徒会室に入る。
「どなた?」
そこには落ち着いた物腰の女子高生がいた。机に書類が広がっているところから書類整理をしていたようだ。
この人が生徒会長だ、と一目でかなみは直感した。
「え、この人が生徒会長さんですか?」
かなみは、生徒会長は翠華の彼氏だと思っていたから戸惑った。
「え、ええ、そうよ。会長の望月さん」
「望月藍花(もちづきあいか)よ、よろしくね」
「は、はい! 結城かなみです! 翠華さんの後輩です!」
「まあ青木さんの後輩なのね。可愛らしいから妹から思ったわ」
「か、かわいらしい……」
かなみは素直にそう言われて照れる。
「ちょっと後輩に校内を見学させているところで、それで会長に挨拶と思いまして」
「そうだったのね。青木さんが生徒会に来るなんて珍しいから驚いたわ」
「お二人はお知り合いなんですか?」
かなみが訊く。
「ええ、副会長と会計が風邪をひいてしまった時に代理で助っ人してくれてね。あのときは助かったわ」
「私、池田君に頼まれただけですよ」
「謙遜しなくてもいいのに。今度ちゃんとお礼するわね」
「そんなお礼だなんて……」
「青木さん、好きなお菓子とかないの?」
「翠華さん、カステラが大好きなんですよ」
「かなみさん!」
「まあ!」
藍花は手を合わせて顔を明るくする。
「私もカステラが大好きなのよ。今度一緒に食べましょ」
「は、はい……」
「教えてくれてありがとうね、かなみさん」
藍花は翠華の呼び方を真似て言ってみる。
「すごい、綺麗な人でしたね……」
「ええ、尊敬している人よ」
「翠華さんの目標なんですね」
「ええ……」
本当はかなみさんが目標なのだけど、と心中で呟く。
「あの人にも生徒会に誘われているんですね」
「ええ、でも、そういうわけにもいかないから断るしかなくて」
翠華は困ったように答える。
「翠華さんが生徒会に向いていると思いますのに」
「そ、そうかしら?」
「仕事でいつも頼りにさせてもらってますから、生徒会でも大活躍ですよ!」
「え、えぇ……」
頼りにさせてもらっているのはいつもこっちの方なのに……とまた心中で呟く。
「私も翠華さんが生徒会に入った高校に通いたかったです」
「それは、本当に……」
そこは声に出して同意する。
かなみと一緒の学校に通えたら……と、思わずにはいられない。
自分の高校を案内させたせいで、より強くより激しく思うようになってしまった。
(かなみさんと同じ学校に通いたい……そのために、そのためなら、なんだってするわ……!)
翠華の中でいけない決意の炎が灯る。
「翠華さん、次はどこに行くんですか?」
「え、ああ、そ、そうね……」
翠華は我に返る。
「大体回ったと思うけど、あと手芸部とかパソコン部とか文化系の部活があるわね」
「こうなったら全部見て回りましょう!」
「でも、時間がちょっと無いわね」
翠華は時計を確認する。
既に校舎を一通り回ったりしているので日が没しかけている。
文化系の部活の中にはもうすでに終わって帰っている部活もあるだろう。
「逆に、人がいなくなった場所にこそ怪人が現れるかもしれませんよ」
「それはそうね」
怪人は人がいないところに住み着いている可能性が高い。
でも、翠華はずっとこのままでいてもいいかと心の片隅で思った。
だって、こうしてかなみと一緒に校内を回るのはどうしようもなく楽しいと感じてしまったから。
日が沈んで校舎も閉まろうかという時間になってきた。
「見つかりませんね……」
「ええ」
かなみもため息混じりに言う。校舎を回り回って疲れているというより、またしても見つからなかった落胆やいつになったら見つかるか不安の方が色濃い。
(私がこのままでいてもいいかもしれないと思ったから……)
翠華は責任を感じ始める。
「………………」
「………………」
お互い無言のまま歩き続ける。
気まずい。何か話題を切り出して気分だけ明るくならないと。
「あ、あの……」
そう考えていたら、かなみが恐る恐る呼びかけてくる。
「この学校にはありませんか……?」
「あるって?」
「ほ、ほら、十二段しかない階段が十三あったり、音楽室の肖像画の目が動いたり!」
「それって、怪談話?」
翠華がそう訊くと、かなみはすくみ上がる。
「あ、いいえ、ないんだったら、いいんですよ! ない方がいいんですから!!」
かなみは慌てて取り繕う。
そんな様子を見て、翠華は察する。
(かなみさん、怪談が苦手なのに気まずいこの雰囲気を何とかしようと……)
そんな気遣いが嬉しくもあり、本当なら自分がしなけばならないのにと不甲斐なさがこみ上げてくる。
「そうね、七不思議ってほどのものじゃないけど、一応は」
「あるんですか!?」
「あるのよ。これからいく備品室に」
「え、ええ!? なんでそんなところに行くんですか!?」
「他に行くところが無くて……」
「あ、あの……やめませんか、行くの?」
かなみは足を止める。
「かなみさんが行きたくないならいいけど、もしそこに怪人がいたら」
「あうう……」
かなみは揺れ動く。
怪談は怖い。しかし、そこに怪人がいるのなら倒せない。そうなったらボーナスが手に入らなくなってしまう。
怖いと欲しいの感情がぶつかり合う。
「――翠華さん、行きましょう」
覚悟を決めた表情で、震える声で告げる。
最終的にはボーナスが打ち勝ったようだ。
「ええ」
翠華はその覚悟は大事にしたいと思っている。出来れば怖がらせたくないのだけど、と反する想いを秘めたまま。
「それで備品室ではどんな怪談が?」
かなみは恐る恐る訊く。
怖いから聞きたくないと思いつつも敵の情報を少しでも知ろうとする。翠華はその勇気に感心するばかりである。
「えっと、そうね。怪談としてはよくある話よ。教師と生徒がいなくなった真夜中にひとりでに備品が勝手に動き出すっていう」
「そ、それって、ポルターガイスト!? お化けじゃないですかぁぁぁぁッ!?」
かなみは悲鳴を上げる。
「まあ、本当かどうかはわからないけどね」
翠華はかなみを落ち着かせるため、あえて冷静に言う。
ガラガラドシャーン!!
まるでタイミングを見計らったかのような物音がする。
「ふひぃぃぃぃぃぃッ!?」
かなみは心臓ごと飛び出しそうな勢いの奇声を上げる。
「おば!? オバポルターが出たぁぁぁぁッ!!?」
「かなみさん、落ち着いて!」
「おばけとポルターガイストが混ざって新種が出来上がっているね」
マニィが言う。
「し、新種!?」
「錯乱しているかなみさんに変な情報を入れないの! かなみさん、落ち着いて! おばけなんていないわ、いるのは怪人よ!」
「怪人?」
「そうよ、ボーナスよ!」
「ボーナス?」
かなみはそこまで聞いて落ち着きを取り戻す。
「そうですね、あっちにいるのはボーナスなんですね」
「ええ、そうよ。だから落ち着いて倒しましょう」
「はい」
かなみは元気に答える。
「ハァハァ、ゲンキンなお嬢だぜ」
「イシィ、黙ってて」
翠華はカバンにはりついているイシィに向かって釘をさす。
ガラガラガラガラ!!
しかし、備品室では物音が鳴り続けている。
「は、早く行きましょう!」
かなみはビクつきながらも必死に呼びかける。
それでもおばけがいる可能性を心のどこかで捨てきれずにいるようだ。
「ええ!」
かなみのためにも、必ず怪人を倒そう。
廊下を歩いた先に備品室の表札が見える。
「開いている……」
そこでは扉が開いていて、明らかに誰かが出入りした形跡がある。
「備品室って開いてるんですか!?」
「そんなわけないんだけど、誰かが勝手に開けて勝手に入ったのよ」
「そうですね! おばけだったら、こんなマネもしませんものね」
「え?」
「千歳さん! しょっちゅうすり抜けて入ってきますから!」
「ああ、そういうことね」
「絶対怪人の仕業です。まだこの近くにいるはずですよ!!」
かなみはキョロキョロと辺りを見回す。
「あっちです!」
かなみは走り出す。
「え!?」
翠華は慌てて後を追う。
「かなみさん、そっちに何かあったの?」
「チョークです! 黒板にチョークを書く音がしたんです!」
「えー」
翠華には何も聞こえなかった。
かなみは教室へ入っていく。
「え、ここって……」
そこは翠華のクラスの教室であった。
校舎に入って最初に向かって入った場所だった。
「いた!」
かなみは指差す。
すると、そこに学生服を着て、青い肌をした人型の何かが立っていた。
「み、みつかった!?」
かなみに指差されて、それは怯えて仰け反る。
「ぎゃぁぁぁぁぁ、おばけ、おばけ!?」
かなみはあからさまに人間じゃないそれをおばけと認識して翠華に飛びつく。
「か、かなみさん!? 落ち着いて! よく見て! あれはおばけじゃないわ、怪人よ!」
翠華は驚きながらも、かなみをなだめすかせる。
「そ、そうだ、俺は怪人だ。おばけや幽霊じゃない!」
怪人の方まで自己主張し始める。おばけだと間違われたら困るのだろうか。
「か、怪人……?」
かなみは怯えながらも怪人の方を見る。
「本当! 怪人だわ!」
「お、おう、信じてくれたか」
「そうとわかれば、もう怖くないわ」
「え?」
「さっさと退治するわよ!」
かなみはコインを取り出す。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「え、何?」
そう聞きつつ、きっちり待つかなみ。
「怪人とはいえ、俺はこの学校の生徒ポルカなんだぞ! 退治されていいわけねえだろ!」
「か、怪人が生徒? 本当なんですか、翠華さん?」
「私に聞かれても……怪人の生徒なんて聞いたことないわよ」
「おお、そうさ! 俺はこの学校に通いたくて住み着くようになった正真正銘の生徒なんだよ!」
「それは生徒って言わないわよ!!」
「く……!」
ポルカはそう言われて悔しさで歯噛みした後、諦めたようにため息をつく。
「そう言われると思ったぜ。この学校に入学できなかったからな」
「にゅ、入学?」
ポルカの言葉には本気の熱を帯びていた。
「入学試験にもちゃんと受けたんだぜ! そのために、きっちり勉強までしたんだぞ!!」
「え、勉強まで!?」
「嘘じゃなさそうね」
翠華は真面目に言う。
「そこの黒板に書かれている数式は高等数学の内容よ」
「ええ!?」
そう言われて、かなみは黒板に書かれた数式を確認する。さっぱりわからない。
「これだけ数学ができるんなら合格だってできたかもしれないわね」
「え、マジですか!?」
「おうとも、俺は合格したんだぜ!」
ポルカは胸を張って言う。
「なのに、ある事情があってこの学校に入学できなかったんだ」
「ある事情って」
かなみは気になって訊く。
すると、ポルカは本当に無念そうに答える。
「――学費だ」
その一言で、かなみは納得してしまう。
何しろ、かなみが高校に入学できるかどうかで勉強と同じくらい、いやそれ以上に悩まされているものだからだ。
「学費が払えなくて、入学できなかったの?」
「ああ、そうだ! 高校に通うには金が要る! 怪人の俺が金なんて持ってるわけがねえ!! せっかく合格したのに、学費が払えなくて入学できなかったんだ! こんな悔しい話があるか!? あるわけねえ!!」
「そ、それはわかるわ……」
話を聞くにつれて、同情してしまう。
自分もそんな立場に置かれているから余計に。
「でも、だからって、こうやって学校に忍び込んで備品を持ち出していいわけがないわ」
翠華は正論を切り出す。
「く、くそ……! まっとうに学費を払って学校に通ってるからって見下しやがって!」
「別に見下しているわけじゃないんだけど」
「俺だってな、ここで授業を受ける権利はあるんだ!」
「いや、ないでしょ」
「そ、そんな! 他に言い方があるだろ! 三角定規ぶつけんぞ!!」
ポルカは備品の大きな三角定規を持ち出してくる。
それで殺人事件を起こせるような剣幕だけど、もとがプラスチックなだけにせいぜい傷害事件が関の山だろう。
「ま、まあ、落ち着きなさい」
それでも反射的に止めたくなってしまう。
「これが落ち着いてられるかってんだ! どのみち俺がここにいる秘密を知ってしまったんだ、生かして帰さん!」
「翠華さん、やる気満々みたいですよ」
「逆ギレみたいな感じだけど」
翠華は呆れつつ、コインを取り出す。
「「マジカルワークス!!」」
宙へ放り投げられたコインから光が降り注ぎ、黄色と青の魔法少女が姿を現わす。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
「青百合の戦士、魔法少女スイカ推参!」
二人が名乗りを上げると、ポルカはたじろぐ。
「ま、魔法少女だと!? そうか、俺を探しにきたのか!?」
「そういうことよ! さあ、私のボーナスのために倒されなさい!」
「ボーナス? 一体何のことだ!?」
「知らなくていいの!」
かなみはステッキを向ける。
「待ってかなみさん。ここで戦ったら教室が無茶苦茶になってしまうわ」
「あ、そうですね……翠華さんの教室を無茶苦茶にするわけにはいかないです。
怪人、外に出るわよ! 体育館裏までついてきなさい!!」
「俺はポルカだ! それとなんで体育館裏なんだよ!?」
「え、あ、それは……雰囲気で」
「まあ、こういう時は定番だから」
マニィが補足してくれる。
「いいだろう。俺だってこの教室を無茶苦茶にされたくないからな」
「もしかして、いい人?」
スイカは首を傾げた。
そして、体育館裏にやってくる。
「ここなら人も来ないし、思う存分戦えるわ!」
「あんたら、俺を倒すつもりなのか?」
「ええ、教室に忍び込んでいる怪人を倒すことになってるから」
翠華が答える。
「じょ、冗談じゃねえ! 俺は悪いことはなんにもしてないんだぜ! 魔法少女に倒されるいわれはねえ!!」
「いや、教室に忍び込むのは悪いことだけど、不法侵入よ」
「他にも備品の破損や紛失もあるね。あと生徒の持ち物の盗難もあるね」
「そういえば、クラスメイトの教科書がどこかにいってしまったと言ってたわ」
十分怪人らしい悪事を犯していた。
「あ~、やっぱり退治するべきね」
「ちきしょう」! やられてたまるかよ!」
そう言って、ポルカは大きな三角定規を二本持ち出す。正三角形と二等辺三角形だ。
それで剣のつもりのようだけど、やはりプラスチック製であった。
バァン!
カナミが魔法弾を撃つと、二等辺三角形の定規がへし折れて吹っ飛ぶ。
「ひいいいい、俺の三角定規があああああ!?」
「あんたの、じゃないでしょ」
カナミはツッコミを入れて、もう一発魔法弾を撃つ。
バァン!
今度は正三角形の定規がへし折れて吹っ飛ぶ。
「ぎゃああああああ、よくもよくも!!」
バァン!
「あぎゃ!?」
そこからさらに魔法弾を撃ち込まれ、仰け反る。
「ノーブル・スティンガー!」
そこからスイカの必殺の一突きで致命傷を負う。
「ぐああああ……! く、くそ、今度生まれ変わったらこの高校の生徒になって、あの人と……」
そう言い残して、ポルカはこと切れる。
「そうですか、あのポルカが高校に行ってたんですね」
柏原は感慨深げに言う。
「あんた、ポルカのことを知ってるの?」
かなみが訊く。
中学校のお昼休みに柏原に呼び出されて、備品室で話をし始めた。
そこで翠華の高校にいた怪人について問いただされたので、かなみは答えた。
「一応、数学を教えていたことがありまして」
「ええ? あなたがあいつに数学教えてたの?」
あの夜、ポルカは黒板に高等数学を書いてた。
怪人がどこでそんな勉強をして、身に着けたのか疑問だったけど、それが柏原が教えたのなら合点がいく。
「ちょっと前に彼から頼み込まれましてね。数学を教わりたいなんて奇特な怪人は珍しいですから」
「そうあんたも奇特で珍しいわよ」
そうなると、柏原はどうやって数学を身につけたのか謎であった。
「これはこれはお褒めにあずかり光栄です」
「褒めてないわよ」
「なんでしたら、あなたにも数学を教えましょうか?」
「はあ?」
「あなたの成績はかんばしくないので、このままですと進学も危ういですからね。高校には通いたいでしょう?」
「冗談じゃないわ! あんたに教わることなんか何もないわ!」
かなみは憤怒して備品室を出て行く。
「まったく嫌われたものですね」
柏原はやれやれといった面持ちで言う。
「事態は動いているみたいですからね。そろそろ、兄さんも……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます