悪鬼猛攻

「はぁ。はぁ。やっと元の場所まで戻って来れた‥‥」


私は辺りを見回して現状を把握しようと努めた。


ユノとダンゾウがいない。それどころか、ここまで走ってきたが人っ子一人見当たらなかった。


全員避難したのか‥‥‥それとも全員‥‥もう手遅れなのか‥‥


この街はもう終わりだ。


私たちの故郷は消滅してしまった。


たった3体の鬼によって。


「あ‥‥‥」


私は大通りの奥に4人の生存者を発見する。


高身長が3人と少し低めの棺桶を背負った男が1人。


もう少し近づいてみよう。煙で前が霞んではっきりと目視できない。


私は恐る恐る足を前に踏み出して炎上する大通りをゆっくりと進む。


「!?」


違う。高身長が3人ではない。モンスターが、いや鬼が3体の間違いだった。


そして最後の1人はさっき大ジャンプをかました彼ではないか!


赤鬼、青鬼、緑鬼の3体に彼は囲まれていた。


さっきより状況が悪くなってませんかねぇ‥‥‥


そろそろ死を覚悟しておいた方がいいかもしれない。


彼は私に足手まといだと言った。だとすると今私がするべきことは回れ右してここから離れるか、物陰に隠れてこの戦闘を見守ることだろう。


でも回れ右してここから離れたとすると報酬を彼に支払うことができない。

=彼に殺される。


では戦闘を見守るとすると彼が負けた場合。

=鬼に殺される。


変わらねぇ!!


誰に殺されるかしか変わらねぇ!結局どっちも死ぬじゃん!


逆に考えよう。彼が勝ったら報酬さえ支払うことができたら生き残れる。

彼が負けても私がここから逃げたら多分生き残れる。


あの男が勝つ方に賭けるか、負ける方に賭けるか。

鬼が勝つ方に賭けるか、負ける方に賭けるか。








信じよう。あの男を。あの巨大な棺桶でどう戦うのかは知らないけれど信じるしかない。


さっきみたいに棺桶を投げて戦うのなら多分勝機はないけど。。


彼が鬼を討伐できればダンゾウ、ユノ、レオトを探しにも行ける。


「3体揃ったか。これは少しばかり面倒だな」


鬼は3体とも彼に視線を一点に集中させている。


彼は目の前の赤鬼だけを睨みつけて棺桶を背に突っ立っている。


「特にお前。この炎は貴様の仕業だな?」


彼は赤鬼を指差して言った。


赤鬼。ハンター集会所の掲示板には3体の鬼の中で最も強い戦力を持っているとの情報があった。


確実に一筋縄ではいかない相手だろう。


そしてさっきの青鬼と緑鬼。

ユノとダンゾウがいないのを考えると2人は緑鬼の足止めに失敗したのだろう。


「来い」


彼は指先でジェスチャーをして軽く挑発する。


「グガアアアアアアァ!!」


先ず最初に動いたのは後方の緑鬼と青鬼。2体が金棒を彼に振り下ろした。


「フラッシュジャンプ」


それを先ほどの大ジャンプで前方の炎上する建物までひとっ飛びし、回避する。


「エレクトリック・アーマー」


彼はひとりでに魔術を詠唱し、棺桶の錠を開けた。


「14番、鬼ヶ島」


中から自分の身長より少し長めの太刀を取り出した。


中には武器が入っていたのか!


しかし彼が武器を取り出している間に赤鬼は彼が乗っている崩れかけの建物の柱目掛けて金棒をフルスイングする。


見事に柱は粉々に粉砕し、ガラガラと音を立てて建物が崩壊してゆく。ちなみに棺桶も建物に埋もれてしまった。


「危ない危ない」


すぐにフラッシュジャンプをしてどこに飛び移るのかと思えば緑鬼の鬼の背後に着地し、背中合わせの状態でガラ空きの背中に太刀を突き刺した。


ノールックなのにその刃は的確に心臓を貫いていた。


「カハッ」


緑鬼の口からドバッと血が流れる。


「依頼は緑鬼だけだからもう終わっていいかな」


は?


嘘でしょ?この状況で?


「まぁついでに狩っとくか」


何がついでだ。残りがメインでしょ明らかに!


即座に青鬼が緑鬼の遺体ごと彼を叩き潰そうと金棒を

振り翳す。


緑鬼の身体がグシャグシャになり、その背後にいた彼もまたその衝撃で吹き飛んだ。


辛うじて太刀は握っていたが体勢を立て直すことができない。


そこに助走をつけて電気を帯びた赤鬼がタックルしてくる。


瞬時に太刀でその攻撃を防いだが電流が彼の体にも伝わり、感電している。


「クエン!」


バックステップして防御型魔術を唱える。薄い膜が彼の身体を包み込む。


「なかなかやるな。エレクトリック・アーマーがなければ重症だった」


赤鬼は依然として身体中に電気を帯びている。金棒も例外ではない。


すると赤鬼は攻撃体勢を解除し、いきなり仁王立ちをし始めた。


青鬼がフルスピードで金棒を正面に突き立てて突進してくる。


その攻撃を彼はあえて受けてクエンによる衝撃を生み出し、青鬼に一瞬の怯みを与えた。


その隙を突いて太刀を胸元に滑り込ませて喉元を掻っ切った。


「グ‥‥ガァ‥‥‥」


青鬼が吐血し、目に少し涙を浮かべた。


「鬼の目にも涙か。じゃあな」


そのまま頭部を切り抜いて青鬼の息の根は止まった。

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