新米狩人

俺たち一行はハンターという職業に就いていて、まだ駆け出しの新人メンバーである。ちなみに全員高卒である。


まず訓練から入ってモンスターとの戦闘に備えて基礎知識を学習してその後は武器の扱い、実戦訓練という順番でカリキュラムが組まれている。


この流れを1年ほどで終えて自然へ駆り出されるのだ。


それから先は自らの腕とパーティメンバーの腕、そして双方のコンビネーションにかかっている。


生きるも死ぬも狩るも狩られるも自由。

クエストを成功して報酬を得て食べていくのか餓死するのかも自分たち次第である。


ハンターには階級があってブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナの4種類まで存在する。


ブロンズ級Level1の超新米ハンターということで適当に実力差のないメンバーを引き連れてパーティを組んでこのソニック平原に至るのである。クエストで。


「おい!コラ!ちょっと待てい!」


「そーよ!何平然とした顔で歩き出そうとしてんのよ!」


無言で歩き始めたダンゾウに2人からの渇が入る。


いやこれは誰でも怒るからね?

俺は自業自得だとしても少なくともマナは100パー被害者だかんな?


ってか俺も当たらなかったから良かったけど顔面の際どいとこまできてたから!俺の削られた精神力を返してくれ。


「ごめんね。僕不器用だから‥‥」


「知らねぇよ!じゃあなんでそんな危なっかしい大剣とか背負ってんの!?明らかに一歩間違えたら味方ごと一撃必殺できる武器じゃん!」


しかもこの山崎ダンゾウ、かなり大柄で身長も2メートル近くあるんじゃないかってほどの体躯である。がっちりしたその体型を包み込む鎧の中にはきっとさぞかしマッチョな筋肉が詰まっているだろうと勝手に想像している。


マナはセミロングの茶髪に少し膨らんだ胸、すらっとしたスタイルが如何にもまだ若々しい少女って印象をイメージさせる。あとは性格が清楚だったら完璧だったのかもしれないがそう完璧な人間がいるとも思えない。一応、魔術師である。一応な。武器が杖なだけ。


俺は身軽な装備で短剣やナイフを数本腰やら尻やらに隠し持った盗賊スタイルのハンター。機動力だけはここでは一番優れている。はず。


だが、今説明した外見はあくまで普段はそうであって、今の状況下においてダンゾウを除いた2人はネバネバだという現実。悲しい世界。


今回のクエストのクリア条件、それはこの先のサマリン密林に生息するゴブリンを3体討伐しろというものだ。


スライムにすら手こずっていた俺たちがゴブリンとかゆう最強のモンスターに勝てるわけないと正直思っている。


ゴブリンーEランク

この星ネクター全域に生息するモンスターの中でもかなり弱い部類に属するモンスター。

いたずら好きで人を襲うことが多い。人里までわざわざ降りてきて厄介ごとを起こす。


ハンターブックにはそう書かれてあった。


「はぁ?何がEランクよ!Aランクはあるでしょ?!ゴブリンでしょ!?最強のモンスターじゃない!」


ネバネバになったせいかは知らんがマナが情緒不安定だ。


「ブツブツ言ってても仕方ねー。さっさとゴブリン狩りに行くぞ!」


ソニック平原ではモンスターに出くわすこともなく、無事サマリン密林にたどり着いた。


サマリン密林。入り口から奥に進むにつれてモンスターのレベルも上がるのはどんなダンジョンでもフィールドでも同じことだが、果たしてここはどうだろう‥‥


ここで命を落とすハンターもいないわけではない。奇襲を受けて死ぬなんてハンターにおいては日常茶飯事だ。


「きゃあああああ!!」


何者かに襲撃されたのかマナが唐突に悲鳴をあげる。


「どうした!?奇襲か!?」


慌てて後ろを振り返ると悶え苦しむマナの姿があった。


「カ、カメムシが!」


俺は優しく彼女の胸部に張り付いた死ぬほど臭いカメムシを素手で取ってやった。


「どこ触ってんのよ!!」


ゼロ距離からマナの平手がレオトの頬に飛んできてパチン!とさぞかし爽快であろう音が鳴る。


「いってぇ!その攻撃をカメムシにしてくれたら助かったんだが!?」


うわぁ〜手がカメムシ臭くなっちまった。ネバネバにプラスαで臭いとか最悪のオプションだな。


「さっきまでそこにゴブリンがいたんだけど逃げて行っちゃったよ」


ダンゾウさんマジっすか?


なんで?臭いから?ネバネバだから?


「な、なぁ今日はもう帰ろう!きっと星占いのランキングが最下位なんだ!きっとそうだ。今日は散々な目に遭った!なぁ?マナ!」


スライムとカメムシに心を折られてトボトボ帰る新米ハンターであった。


もちろん報酬ゼロ。


俺たち3人がハンターとして活動している街、ペルー。

ハンターは世界各地で活動していて拠点にする街は千差万別。どんな国にも街にも依頼は腐るほどある。それを解決する正義のスーパーヒーローが何を隠そうこのハンターである!


とか言ってもこれじゃあそこらへんにいる老若男女の一般人と変わらねぇ。下手したら、いや下手しなくてもそれより弱いんじゃないか‥‥‥?


クエストをクリアできなければ死ぬだけだ。飯も服も家賃もこの仕事で賄わなければならないのだから。


「まぁまぁレオト!そんな浮かない顔しててもないしょーがないじゃん。今回はトラブルが多かっただけだって!次はみんなで上手くやるよ!」


集会所でしょぼくれてた俺をマナが励ましてくれた。

ちょっと落ち着きがないだけで根はいい奴だ。


「そうだな‥‥‥明日こそはクエスト、クリアしようぜ」


「うん!」


着替えを終えたダンゾウもなんか聞いていたらしくドヤ顔で親指を立てていた。


なんでドヤ顔‥‥スライム倒したからか?

スライムごときで、しかも人をネバネバにしておいてドヤられても‥‥‥


まぁいいか。


「じゃあとりあえず戦闘も終わったし、銭湯でもいこう!」


「レオト君、うまくないよ?」


「黙れ!」


まずこの臭いとネバネバを落とすことが先決だ。これではモンスターにも住民にも嫌われかねない。

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