3 檻

 初めて入れられたときは、本当に檻が鉄で出来ていたので驚いてしまう。

 くすんだ白色のペンキが剥がれた箇所には赤茶色の錆が死んだ脳腫瘍のように噴き出していて、舐めると渋い血の味がする。

 本当の鉄だとは信じていなかったので、大きく口を開けて齧ってしまったので、歯が欠ける。

 今では補修されてエナメル質の白がラメラメと煌く。

 騙されたと気づいて、細い両腕で格子を激しく揺すって、指の骨を何本も折る。

 今では折れていないが、余りに何度も同じ箇所を骨折したので、均質で綺麗だったわたしの指の一部が、今では突き指を繰り返した関節のようにボッコリと膨らんで醜い。

 見舞いに来た死んだ姉は、以前と変わりないじゃないの、可笑しいわよ、と指摘するが、わたしには見える。

 手袋をすれば見えなくなるが、その膨らみを愛した男もいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る