第10話 早朝訓練 壱
「クウヤ様時間です」
ソティスが機械的にクウヤを起こす。起こされたクウヤはまだ意識が朦朧としていた。朦朧としながらも、ベッドからのっそりと起きだし、
「さてと、いこうか」
装備を整え、ソティスの方へ向いた時にはすっかり目覚め、気合も入っていた。いつもにないクウヤの様子に、ソティスは少々驚く。クウヤもあまり見みることのないソティスの様子に少々驚いていた。
「何か心境の変化でも?」
ソティスの質問にクウヤは苦笑する。
「夢にでたんだ。訓練をちゃんとしないと将来どうしようもない事になるって言われてね。どうもそのことが気になって……」
「誰かが現れたんですか?」
普段は人の忠告をあまり素直に聞くことのないクウヤが夢とはいえ、やけにあっさり他人の忠告に従ったことが気になったソティスは、ふと夢の内容が気になりクウヤに尋ねる。
「どこかで会ったことのある人なんだけど、よく思い出せないんだ。ほんとずっと昔になあったような気がする女の人でね、雰囲気はソティスをもっと柔らかくした感じ……」
途中まで言ったところでソティスの雰囲気が変化し、クウヤはソティスの顔色を
「……ま、行こうか」
クウヤはそばの雰囲気を強引に変えようと外出しようと促す。ソティスも自分の僅かな感情の変化を悟られたことを少々恥じて、クウヤの提案に無言で従う。そのまま二入はクウヤの部屋を出て勝手口へと向かった。勝手口から出ると、仄かに東の空が明るくなり始めていた。朝のややひんやりとした空気の中、二人は体をほぐし始める。
「準備は出来ましたか?」
ソティスがクウヤに尋ねると、クウヤは頷く。二人は魔力を練り始めると同時に歩き始める。仄かに青白いオーラに包まれた二人は街へ入っていく。街並みは暗く鬱蒼とした樹林のようで、得体のしれない雰囲気を醸し出し、仄かに明るくなった空とはっきりとしたコントラストをなしていた。
屋敷を密かに出た二人は街への階段を降りて街の中心部へ向かっていく。風のように街中を駆け抜けてゆく二人の影が空が明るくなるのと同時に伸びてゆく。街の中心部には広場がありその広場を中心に市場などが立ち並ぶ。その広場から海の方向を見ると港が見える。二人は港を横目に見ながら、広場を走り抜けていく。
(……バテた。ちょっと休憩したい……)
クウヤはいつもどおり根を上げ、走る速さが次第に遅くなった。ソティスはそんなクウヤに気づく。
「少し、ゆっくり行きましょうか?」
「頼む。初日からこれじゃもたないよ」
二人は軽く駆け足する程度の速度で街中を抜けていき、広場を離れ、山の方へ向かった。階段を駆け上がり、小高い場所にある平屋建ての建物のある小さい広場へと着いた。
「ここが教学所です。ここまでの道のりはいいですか?」
「大丈夫だと思う。そんなに入り組んだ道じゃなかったから」
そんなやり取りをしながら、教学所のそばを二人は通り抜ける。教学所を通り越し、更に山の方へ向かう。暫く行くと鬱蒼とした森へと向かう道に入った二人は一旦立ち止まった。
「ここから、魔力をもっと練って奥へいってもらいます。ここは偶に魔物が現れることがあるので十分注意してください」
「まっ魔物ぉ……? こんな街近くで出るの?」
「魔物といっても小物ばかりで、慣れれば簡単に狩れます。ただ、気を抜くと大怪我をしますよ」
「……大丈夫かな?」
実戦を経験したことのないクウヤは非常に強い不安に襲われた。そんなクウヤをソティスは気遣いそっとクウヤの肩に手をのせ励ます。
「大丈夫です。ちゃんと援護しますから。それから、魔力は極力練り続けてください」
クウヤは首肯し、気を引き締めて森へ向かって歩き出す。ソティスもそれにならい森へ向かって歩き始める。薄暗く、
森の中は暗く、わずかに頭の上の木々の合間から仄かに明るくなった空が見えるだけであった。二人は暗い森の中を慎重に進む。
風が吹くたびに木の葉が揺れ、そのたびにクウヤが身構える。それに対しソティスは自然体であった。クウヤはそんなソティスが不思議でたまらなかった。
(なんでソティスは自然体なんだろう?怖くないのかな?)
「クウヤ様、気を抜かずに」
考えこむクウヤにソティスは注意をする。その時、道端の茂みから何かが飛び出してきた。クウヤは身構え、装備している短剣を構える。ソティスも詠唱をはじめ、戦闘に備える。
暗闇の中の何者かはこちらの様子を伺っている。クウヤたち二人からは黒い塊が身構えているように見えた。
(魔物か?)
クウヤは黒い塊を見据えながら考える。黒い塊は突然動き出し、クウヤたちに向かってくる。
(きたっ!)
クウヤは黒い塊に短剣を突き立てるが、空を切り黒い塊に当たらない。舌を鳴らし、クウヤは再度、黒い塊を攻撃する。ソティスは詠唱が終わり魔法を発動するタイミングを図っていた。黒い塊はクウヤの攻撃を躱し、クウヤに反撃しようと爪を振り上げた。
「クウヤ様伏せて!」
ソティスが魔法を発動させ、黒い塊に攻撃した。
「炎撃!」
ソティスから黒い塊に炎が飛ぶ。黒い塊が燃え上がり、のたうち回る。
「クウヤ様とどめを!」
ソティスの檄がとび、クウヤがすぐさま反応する。
「このっ!」
黒い塊に短剣をつき立て、とどめをさす。黒い塊は痙攣し、その動きを止めた。
「……こいつは何?」
「これはこのへんに住んでいる黒爪です。すばしっこいのでなかなか剣などでは倒しにくい魔物です」
そう言いつつ、徐にソティスが腰の短剣を取りだし、魔物の爪を切り取り出す。
「何しているの?」
「この爪は高く売れます。倒したときはとっておいたほうがいいですよ。それに予備の投げナイフ替わりになりますし」
ソティスは慣れた手つきで爪を切り取り余分な肉などを短剣でそぎ落とす。
「さて、行きましょうか」
ソティスは短剣を腰の鞘に収め、爪を背嚢に収める。その手慣れた様子がクウヤには不思議に思えた。
「ソティスはどうしてそんなことを知っているの?」
「昔の癖とだけ言っておきましょうか。冒険者の経験がありますから」
「他には何かしてた?」
「他にも小さい時からいろいろしてましたが……」
そういうとソティスは物哀しげに顔を俯けた。
「さぁ、死体を片づけます。危ないので下がってください」
ソティスは詠唱を始める。その横でクウヤは死体から離れていく。ソティスはクウヤが十分距離をとったのを確認すると炎で魔物の死体を焼き払った。
「こうしないと、魔物を呼び込みます」
淡々とソティスはクウヤに説明する。クウヤに余計な質問をさせないようにと思えるような断定的な口調であった。
「さぁ、行きましょう」
ソティスとクウヤは更に森の奥へ進んでいった。
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