負けはしないと思いました。
襲い掛かってくる虫の魔物は湿地帯に出現する奴等よりも手ごわい。
クロヤンマよりも一回りも大きなアカヤンマは強力な顎で噛み砕こうと飛来して来るのに加え、小さいながらも火球をぶっ放してくる。ただ、球のスピードがアカヤンマよりも遅いから、避けるのは簡単だ。
手慣れた冒険者は、その火球を敢えて利用し、他の魔物を背後にしながら相対し、下級を放ったら即避ける行動を取る。
こうする事により、火球は他の魔物へのダメージソースとなる。虫の魔物はそうじてほとんどが赤属性の攻撃に弱いので、アカヤンマは魔物達にとって疫病神状態になっている。
ただし、アカヤンマの火球を喰らわない魔物もいる。
例えば、イエローモス。アカヤンマとほぼ同じ大きさのこいつは風を操って火球を霧散させて被弾ダメージをゼロにする。更に、麻痺効果のある鱗粉を風に乗せてこちらに送ってきたりする。なので、イエローモスを相手するのは麻痺耐性のある者もしくは同じように黄属性の魔法が使えて風を生み出せる魔法職の者だ。
あと、クロカマキリは火球をその自慢の鎌で一刀両断し、フレンドリィファイアを防いでいる。大の大人と同じくらいの大きさで繰り出される巨大鎌は驚異の一言だ。接近戦では苦戦を強いられるので、基本的に遠距離から戦う事になる。
ただし、生半可な飛び道具や魔法では鎌で一蹴されるので、実態を持たない黒魔法や白魔法、鎌で防ぐ事が出来ない高威力の攻撃をしなければならない。
火球が効かない相手として、他にメタリックスタッグと言うクワガタがいる。こいつは一メートル五十センチはある身体をぎんぎらぎんに光らせている。とは言っても、こいつには属性が無いらしいので魔法を放ってくることはない……が、問題はその甲殻の硬さだ。
メタリックと言う名前の通り、かなり固い。そしてアカヤンマ如きの火球では燃える事も無い程に堅牢な作りとなっている。
こいつは基本的に守りの甘い関節部位を積極的に狙ってだるま状態にしながら解体するのが主な対処法だ。ただ、こいつはアグレッシブに動き、隙あらばその巨大な顎で真っ二つにしようとして来るので油断は禁物だ。
「ブラックグラビティエリア」
まぁ、クロウリさんのブラックグラビティエリアで無防備を晒す事になるから問題ないんだけどね。
因みに、今回ブラックグラビティエリアを使うのに触媒としてアンデッド核を使用している。触媒を使用する事により、効果時間と範囲が長くなり、だいたい二十秒程三十近い虫の魔物が宙に浮く。
大勢が行動不能に陥ったので、俺、レグフトさん、その他冒険者面々がこぞって殲滅に掛かる。
「ふっ」
メタリックスタッグへと接近し、俺はハンドアックスをドライブの要領で切り上げ六つの足を根元から断ち切り、足による妨害を受ける危険が無くなったので即座に首を跳ね上げる。
クワガタを倒した後は、近くにいたイエローモスを一刀両断し、続いて綾ヤンマの首も跳ねる。
「はぁ!」
近くでレグフトさんがクロカマキリへと切り掛かる。クロカマキリは両腕の鎌で何度も切りつけて来るが、レグフトさんは盾で受け、剣で弾きその猛攻を掻い潜って、白い光を宿して剣で両断する。
他の冒険者の面々も順調に魔物を屠っていく。その間クロウリさんは次のブラックグラビティエリアを発動する為にアンデッド核を地面に置いて詠唱をしている。
「ホワイトアウトレイ!」
クロウリさんが詠唱中、勇者パーティーの魔法使いが白魔法ホワイトアウトレイを繰り出し、複数の魔物の複眼に白い光線をブチ当てる。このホワイトアウトレイは殺傷能力はないけど、一定時間視力を完全に奪うそうだ。
虫型の魔物は複眼以外にも触覚で感知もするが、視力で得ている情報をカット出来るので行動を大きく阻害出来る。
因みに、この勇者パーティーの魔法使い、白魔法使いらしい。なので、クロウリさん同様に、自身の突出した属性――白属性の魔法に関しては効力が更に上がる。ホワイトアウトレイの効果時間も三十秒程あって、いい具合に錯乱出来ている。
現在の戦い方は、クロウリさんが魔物を行動不能にし、クロウリさんが詠唱中は代わりに勇者パーティーの魔法使いが魔物を妨害する。魔物の動きが鈍っている間に近接戦闘が得意な奴等が即行で殲滅、となっている。
この二人の御蔭で比較的安全に魔物を倒す事が出来ている。
ただ、それでも怪我をする人がいるのに変わりない。
怪我をした人は勇者パーティーの僧侶に一斉に回復して貰っている。
勇者パーティー以外にも僧侶がいるが、勇者パーティーの僧侶は難易度の高い遠隔回復が出来るそうだ。本来僧侶による回復は手を触れながらでないと発揮されないが、この勇者パーティーの僧侶はだいたい二十メートルくらい離れている相手でも回復を行う事が出来るそうだ。
ただし、まだ僧侶として未熟なので治癒力は低めだ。
なので、ある程度の軽傷を主に治し、自分の手に負えない大きな怪我をした者は他の僧侶が回復を掛けている。
順調に事は進んでいるけど、一向に魔物の数が減らない。倒しても倒しても、次から次へと押し寄せてくる。
ほぼ傷を負う事も無く、傷を負ったとしても回復出来る。しかし、疲労は別だ。ほんの少しの動作で倒す事が出来ても、徐々に肉体的な疲労として蓄積し、張り詰めた緊張感による精神的な疲労が溜まっていく。
段々と息を荒げる者が出てくる中、それでも動きのキレが鈍らない者が一人。
桐山薫。召喚された勇者。息一つ見出さずに、虫型の魔物を正眼に構えた刀で屠っていく。
あいつは中学、高校と剣道部に所属していて、確か中学最後の大会では県大会個人の部でベスト4に入ってたっけ。もしかしたら、俺と同じように【剣道】なんてスキルを持っていたりするかもしれない。
屠っていく魔物は、クロウリさんや白魔法使いが阻害している奴じゃなく、素の状態の奴等。普通に動き、視界も良好な奴等を相手に一歩も譲らず、冷静に、的確に刀を切り付けその命を奪い取っていく。
かなりの数の魔物を倒しているから、桐山のレベルも結構上がっている筈だ。40は超えてるかもしれない。
レベルが上がれば、その分だけ強くなる。更に、桐山は【異世界からの勇者】の称号によってステータス上昇補正も受けている。
桐山が順次魔物を屠っていく姿を見て、勇者パーティーの戦士を始め、他の冒険者達の士気は下がらない。息が上がり始めても、無理をせず、他者と協力して魔物の相手をしていく。
「……で、あっちはどうなってるかな?」
俺は、一瞬視線を魔物が湧いてくる方へと向ける。あちらの奥の方では、バァゼとジョースケさん達の戦いが繰り広げられている筈だ。
ここからだと全く見えないけど、魔王軍幹部が一向に勇者を殺しに来ないのでジョースケさん達は健闘していると思う。
と、不意に虫型の魔物が左右に分かれて道を作る。
その道を巨大なカブトムシが歩き、角に電撃を走らせて桐山へと真っ直ぐ向かって行く。
流石に、ジョースケさん達はこの巨大電撃カブトムシの相手までは出来なかった訳か。ゲームで言う所の中ボス戦かな?
カブトムシは電撃を纏った角を振り下ろす。すると、一条の電撃が放たれ、桐山へと襲い掛かる。桐山はそれを横に跳んで回避する。
桐山はすっと目を細め、電撃カブトムシを見据えると、刀を構えて切り掛かっていく。
カブトムシは何度も電撃を放ち、桐山を攻撃するけど、桐山は左右に飛んで回避し、着実に距離を詰める。
刀の範囲まで近付いた桐山は脚を一本切り落とそうと根元目掛けて剣を振る。
しかし、それはカブトムシの角によって妨害される。刀と角がぶつかり、火花と紫電が飛び交う。
どうやら、一筋縄ではいかない相手のようだ。
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