げーむ、すたーと!
「ようじょ・はーと・おんらいんへようこそぉ!」
何もない、黒い空間にたどたどしい幼い声が響き渡る。どう聴いても幼い女の子の声だ。
おいおい、なにもゲームガイダンスまで幼女にしなくたっていいだろう。正直に言うと聞き取りづらいし、わざわざテキストを表示させるなら読ませる必要もないんじゃないのかと思う。
まぁしかし凝ったゲームだなとどこか感心していれば、|幼女(ゲームガイダンス)がどんどんと説明を続けていた。
注意事項や、規約などを読むように言われるが、ざっと目を通して、すぐに先に進んだ。だいたいなら見なくてもわかるから、さくさくいこうぜ。
「それでは、しんたいでぇたのすきゃんを、おこないます!りらっくすして、おまちください!」
どこか、お手伝いをする子どものような案内にほっこりとしてしまう。
身体データのスキャンの間は特にすることもないので、とりあえず待った。通常であれば5分とかからないそうなのだが、別の身体に変化させて遊ぶという性質上、適切なデータを取るために10分以上は時間がかかるらしい。
月本の話だと、とある別のゲームだと30分以上もかかったものまであるそうだ。
まぁしかし、待つしかないのでひたすらに待った。やることがないとはいえ、いちいち「あとちょっとまっててね☆」といった調子に数分おきに喋るのだけは勘弁してほしい。
「すきゃんが、かんりょうしました!きゃらくたぁめいきんぐをはじめます!」
キャラクターメイキングとは言うが、実のところプレイヤーができることはほぼ無い。
大元となる身体は、先程スキャニングした身体データをもとに自動生成される。
子どもの、それも元の性別と違う身体に置き換えるために、なるべく齟齬が生じないように、あまりにも現実離れしたようなキャラクターを作ることはできないそうだ。
まぁ、自由に身体を変えられるなら、もっといろいろな種類のゲームがでてきそうだしな。わざわざ幼女をモチーフにする必要もない。
幼女といえば、生意気な姪っ子のことを思い出す。あれももう小学生になっていたから幼女ではないか。その辺の基準はいまいちわからないが。
昔はそれなりに遊んであげてた記憶もあるが、ここ最近はこちらも暇がなく、向こうも俺のようなおっさんに興味はないのか、どこか疎遠になっていたなと、ふと思った。
ようやくできた時間をこうしてゲームに当てている俺が、とやかく偉そうにいえることな何もないわけだが。
そんなことを考えているうちに、身体データスキャンが終わったようである。
「あなたのしんたいでぇたをよみとって、あばたーができあがりました!」
と、俺の目の前に出された画像には、黒髪ぱっつんで、目がクリッと大きく、温和で優しそうな、俺の厳つい顔とは似ても似つかない、あどけない幼女の顔が写っている。
全く似てはいないのだけれど、よーく見てみれば、パーツパーツが似ている気がしなくもない。娘とかができたら、ああいった感じになるのだろうか。その前に嫁さんを探せという話だが。
この見た目でいいですか?とガイダンスが流れる。
一応やり直しは効くらしいが、それも自動生成になるので、自分の理想の身体にするのは根気がいる作業だなと思う。
改めて画像の幼女を見る。
あの温和そうな幼女が俺なのか、と思ってそれは厳しいなと思いやり直しを選択しようとしたのだが。なれないVR上での操作に、決定ボタンを押してしまう。
「それでは、つづいてかみのいろと、かみがたをきめてください!」
……どうやら俺はあの幼女になってこのゲームをしなくてはいけないようだった。
はぁ、とため息をつき、次の操作を慎重に行う。
髪の色はそのままでいいか。あまり奇抜な色は好きではない。自分ならなおさらだ。
髪型は、どうしようか。
ヘアカタログのようなものが俺の前に現れる。様々な髪型が載っており、その中から髪型を選ぶ。慣れると自分で好きなように変更できるそうだが、生憎と俺には髪を結った経験などない。しばらく眺めていると、その中に目にとまったものがあった。
後ろにストレートに伸びた髪はそのままに、触角のように横にほんの少しだけ結った髪型。まるでピコピコとはねそうなそんな髪型だった。
昔姪っ子がそんな髪型をしてて、可愛らしかったのを覚えている。
せっかくだからその髪型にしてみようと、それを選択する。
「さいごに、なまえをきめてね!」
名前、所謂ハンドルネームのようなものだろうか。
今までやってきたゲームでは、厨二っぽい男らしい名前を使っていたから、あの見た目には合わないと少し悩んだ。
悩んだ末に、自分の名字である|小日向(こひなた)からとって「ひな」にした。これなら幼女のようで、違和感はないだろう。
決定ボタンを押して、すべての設定が完了した。
「これでせっていがかんりょうしました!それでは!ようじょ・はーと・おんらいんのせかいへ!いてらっしゃい!」
世界が暗転し、俺の身体が変わっていくような、ゆらゆらと不思議な感覚につつまれた。
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