JEWELRY MEMORY

矢田昌子

本編

プロローグ


ある日————世界から宝石が消えた。


 何が起きたのか人類は理解できなかった。

世界のすべての宝石が消え、それぞれが…ダイヤモンドならダイヤモンド同士、エメラルドならエメラルド同士、一つになったのだ。宝石はそれぞれたくさんの量があったのに、なぜか一つにまとまると、指の一関節分くらいの大きさにしかならなかった。

 その後宝石は一つに一人、日本にいる己の適合者を選び、その者の手元に行った。宝石に選ばれた適合者は初めは困惑した。宝石を質屋に売る者も出てきた。

しかし、数日後から宝石を手放す者がばったりと消えた。質屋に売った者が、必死になって取り戻そうとする光景さえ見られた。なぜなら、宝石の秘めたる力が素晴らしかったからだ。

 宝石は適合者に力を与えた。宝石の力で足が何倍にも速くなった者、武器を生成できた者、様々だった。適合者はその力に歓喜し、適合者に選ばれなかった者は適合者から宝石を奪おうとした。

だが、宝石を奪っても適合者に選ばれなかった者はその力をふるうことが出来なかった。


 いつの間にかネット上で宝石に力があることが騒がれ、宝石の適合者による犯罪も増えてきた。しかし、適合者の集まったある組織が犯罪者を捕らえたのだ。国民のほとんどは非適合者であるため、その組織が国民の支持を得るのに時間はかからなかった。ところが、その組織は、犯罪者である適合者を裁かず、組織に組み入れていた。国民が批判するも、適合者の力に非適合者の国民は成す術がなかった。今ではその組織が日本の全権を握っている。

日本は今、適合者たちの統べる独裁国家となれ果ててしまった。適合者の力は凄まじい。選ばれなかった者に逆らう力も術もない。そう、非適合者…“無石”は考えていた。

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