Ⅱ
次々と騎竜艇が飛び立っていく
流石にどちらも投げ出されるという無様は晒さず、危なげなく足から駐機区画に降りるのを見届けると、ノクトはすぐさま機体を旋回させて発進する。
アクセルを入れる。響素動力推進器が咆哮を上げ、〈ファーヴニル〉は一瞬で音速域へ至り、壁を突き破る。
〈ファーヴニル〉の主翼前に左右合わせて六つの虚空楽譜が顕現し、響素が充填されていく。
瞬く間に距離が近づいていく。すると、竜の瞳が不意にノクトのほうを向く。背筋に走る悪寒に震え、咄嗟に機体を急旋回。
同瞬、寸前まで〈ファーヴニル〉が飛んできた軌道上に放たれる竜の『息吹』。衝撃波を纏った閃熱が虚空を貫くのを見ながら、ノクトは舌打ち一つし、〈ファーヴニル〉の飛行を制御する。砲門の如く虚空楽譜を携えた漆黒の機竜が、浮遊大陸の上で無意味に暴れている竜へと接敵。同時にノクトは起動引金を引く。
充填された響素が解放されると、形成された一六〇〇度の熱量を持つプラズマが六本の雷槍となり、光速で竜へと叩き込まれる――寸前で掻き消された。
「――なっ!?」
驚愕の声を上げながら、ノクトは機体を空中で
「ったく、今日は卑怯の見本市か何かかよ?」
自分がその一端を担っていることを棚上げしながら、ノクト唇の端を吊り上げながら竜を見た。
思った以上に大きい。目測で全長は四〇メートル前後。超大型の空禍に比べるとそうは感じないが、『竜』という存在であるだけで充分脅威であると言えるだろう。
ノクトとて、竜を見るのはこれが初めてだ。そもそも実在するとは思っていなかった。もしかすると空禍の中に竜に類する存在がいるのかもしれないが、幸か不幸かこれまでに出会ったことがないため、竜との遭遇はこれが初である。
勿論、そんな経験が何度もあったらたまったものではないが。
「でもまあ、流石に愚痴ってる場合じゃないが……どうするよ?」
ただでさえ巨体で、近づいて剣で切り付けるなんて出来そうもないし、そもそも通用するとは思えない。第一に、
「もう使い物にならねーだろうし……」
鞘に納めた〈白刃〉をこっそりと抜く。見れば、刀身全体が盛大に罅割れていた。恐らくデルムッドの槍と合わせたときに耐久度を超えたのだろう。使い物にならないのは明白だった。
つまり、戦響技で挑むのも不可能ということ。いや、もともとそんなつもりはないが。
だが、こうしている間にもこの浮遊大陸に向かって空禍が迫っているのである。原因はこの竜と見て間違いないのだから、そうそうにこの竜と討たなければ、被害は想像を絶することとなるだろう。
だが、一体どうすればいいのか?
考えてもなに一つ対抗策が思いつかず、ノクトは自分の無力さを痛感しながら竜を見据え、苦し紛れの迎撃行動へと移る以外、他にすることが思いつかなかった。
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