Ⅴ
「あー……やってしまったな」
「いやいやいや!」
あっけらかんとした様子でそう言ったエルの様子に、思わずメリアは慌ててかぶりを振った。
「それはその一言で済ませていいことなのですか?」
「とは言うがなー。他にどう言えというんだ? どう取り繕っても、『やってしまった』という一言が、なによりも今の状況を如実に表していると思うが」
確かにその通りかもしれないが、果たして自分が彼女と同じような状況に陥ったとして同じ態度がとれるかと言えば、否である。
椅子に背を預けて渋い表情を浮かべるエルの様子には、自身の過失に対しての反省の気配は何処にも見当たらなかった。
が、そう思ったのはその一瞬であり、メリアはその考えが間違いであることに気づく。
――飄々としているように見えるエルの手が握り拳を創り、微かに震えていた。
していない――ということはないだ。単に人より百倍それを表面上に現さないだけだ。
そして、この少女はそうすることで周囲を欺き、他を追い抜いて
心配ならば、心配と言えばいいのではないか、というのは無粋だろう。
ついでに言えば、メリア個人としてもそれを指摘するのは喜ばしくないので何も言わない。
「『ざまあみろ』と表情に出ているぞ? メイア」
「――なっ!?」
そんな莫迦なと思いながら、メリアは思わず自分の顔に手を伸ばそうとして――はっと我に返る。
エルが失笑していたのを見て、即座に自分がからかわれたのだということを自覚する。
「嘘がつけないな、お前は」
「姫様が一〇〇倍意地が悪いだけではないかと……」
苦し紛れにそう返し、メリアは務めて真面目な表情を繕った。
「それで、どうするのですか?」
「決まっている」エルは即答した。立ち上がると同時にブリッジの中を見回し、そこにいる団員に吼える。
「総員に告ぐ! 緊急事態により、今より第二航空艇団は通常航空から戦闘航空へと移行。速度最大でルインヘイムへと向かう!」
『
ブリッジ内の全員が声を揃えてその命令に応じた。それぞれが己の仕事を果たすべく自身の席に座り、割り当てられた端末を使い、〈ヴリュンヒルデ〉の機体制御に動き出す。
「――団長」
そんなブリッジ内を見回しながら、控えていたヴィレットが静かに問う。
「戦闘航空と言いましたが、敵は一体何者なのです?」
「ノクトが言っていただろう? トネリコの葉を模した胸飾り……と」
エルは手元の端末を操作して、情報の一つを開く。
項目の閲覧ランクは
資料の第一項目。そこに記されている名を見て瞬間、周りの空気が凍りついたようにエルには感じた。
――『
ブリッジの大画面に表示されたその名を見て、メリアたちがこぞって息を呑んだ。
ざわめくブリッジ内を見回して、エルは満足そうに首を縦に振ると、ひっそりと、しかし全員の耳に確かに聞こえるように言い放つ。
「――秘密結社『大樹の実り』。これが恐らく、私たちの敵だろう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます