黒い影

 時刻は朝8時。 3人の学生が道を歩いていた。

 1人はかわいい女の子で、2人は男の子の学生である。

 道と言っても今駐輪場に自転車を止めたところで、校舎に向かって歩いている途中だった。

「そう言えば昨日のニュース見た?」

 最初に口を開いたのは黒木くろき京介きょうすけ

 大人しそうな雰囲気で、優しく微笑みながら2人に話題をふる。

「見たよ。 優衣なんて震えて暫く離れてくれなかったからな」

「だって怖かったんだもん……」

 そう言って女の子は頬を膨らました。 2人の男子は笑いながら先を歩いていく。

 女の子の名前は嵩霧かざぎり優衣ゆい

 まだ幼い顔立ちで、身長もあまり大きくない女の子である。

 そしてもう1人の男の子の名前は嵩霧かざぎり辰也たつや

 黒木京介とは親友であり、嵩霧優衣の兄である。

「じゃあまた放課後ね。 お兄ちゃん」

 優衣はそう言って辰也に抱きついて、その後校舎に入って行った。

「相変わらず辰也はお兄ちゃんなんだね。

 許嫁なのに」

「一応義妹って事になってるからな」

 辰也はため息混じりに答えた。

「お父さんが割りと勝手に決めたんだっけ?」

「まぁ……そうだよ。

 それより京介のお姉さんはどうなんだ?」

「相変わらず入院生活さ」

 京介はそう言ってため息をついた。 そして少し表情が暗くなる。

「もう長くは無いかもね」

「おいおい随分と弱気だな……。 大丈夫だって」

「そうだね……。 今の治療が上手く行けば……」

 辰也は京介がそう言って自分自身に言い聞かせる様にしている風に見えた。

 そんな会話を交わしながら二人は下駄箱で靴をスリッパに履き替え、教室に向かった。



 辰也が通っている学校は中高一貫校であり、優衣は中学受験で。 辰也と京介は高校入試でこの学校に入学した。

 山の上の方に立っており自然に囲まれた緑豊かな学校である。

 校門の一番近くに駐輪場があり、そして中学生の教室がある校舎。 そして高校1年生、2年生、3年生と校舎が奥にある。 校舎の東側に大きなグラウンドがあり、改築が済み綺麗になったばかりの体育館も設置されている。 西側に音楽室、美術室や保健室と言った部屋がある校舎がある。 食堂はその校舎の1階にあった。

 辰也もこの学校に通いはじめて早2年。

 至って普通の学生生活を送っていた。



「1時間目は……国語か」

 辰也は欠伸をしながら席に着いた。 京介も机の上に教科書とノートを開き、のんびりとしている。

 チャイムが鳴り先生が入って来ると学級委員長の号令で礼をすると先生が授業を始めた。

 辰也や他のクラスメートもこれがいつもの日常であった。

 1時間目が終わると担任からの連絡事項等が伝えられる朝礼が入り、短い休み時間の後に2時間目が始まる。

 2時間目が終わると休憩を挟んで次は3時間目。

 それが終わると昼休みである。

「随分と話題になってるな」

 昼休み。 辰也は京介と弁当を食べながらそんな事を呟いた。

「例の事件かい?」

「あぁ。 でも確かに奇妙な事件だもんな」

「老人ホーム内の人間全員が首を跳ねられて殺害された。

 監視カメラは当然の様に壊されていて犯人は誰か分からない。

 っていう事件でしょ?」

「そう。 しかもこれで確か4件目だったか? しかもまだ今月に入ってから2週間でだ」

 辰也がそう言うと京介は頷いた。

「1件目は客数が少ない時に行われたコンビニ。

 2件目は中学校。 3件目は高校。

 そして今回の老人ホーム」

 辰也は難しそうな顔をしながら唐揚げを口に運んだ。

「全く関連性がないよな。 その襲った建物」

「確かに規則性は無いね。 だからこそ何が目的か分からない」

「そしてここ最近の2ヶ月で合わせると20件を越えると言われてるのか……。

 恐ろしい連中だ」

 辰也は最後の唐揚げを口に入れ、お弁当箱を袋に包み、鞄に入れた。

「次は美術か……。 移動する教科はめんどくさいな」

 そう言いながら辰也はロッカーから自分の彫刻刀を取り出した。

「ごめん辰也。 先に行っててくれ」

 先程まで窓から外を眺めていた京介はそう言って教室から出ていった。

「京介、お前の彫刻刀持っていこうか?」

「あぁ、頼むよ」

 京介は笑顔でそう答えると階段を降りていった。

「トイレか?」

 辰也は首をかしげながら京介のロッカーから彫刻刀を取りだし、美術室に向かった。



 京介は三年生の校舎の横を通りすぎ、教職員専用の駐車場に向かった。

 この時間に帰る教職員は居ないようで、人は全く居ない。

 

「何しに来たの?」

 京介は一台の車に寄りかかっている金髪の女性に声をかけた。

 女性は見た目は20代といったところで、黒い車に腰をかけ、黒いドレスの様な服装をしていた。

 左腕には黒いブレスレットが光に反射して光っている。

「あら、私が来たことに気づいたの?」

 女性はそう言って京介に歩み寄ると自分の体を押し付ける様にして抱きしめ、口を耳元に近づけた。

「それとも私に逢いたかったのかな?」

「否定はしないよ」

 京介はそう言って女性の肩に手をかけ、自分から体を離した。

「あら嬉しい。 それでいつやるの?」

「次の授業中にやるよ。 それでもう1度聞くけど。

 何しに来たの?」

「貴方の監視よ」

 女性はそうと答えた。

「あの人も酷い任務も貴方に任せたものだけど……。 それでも失敗は許されないわよ?」

 女性はもう一度京介に抱きついて京介の耳元に口を近づけた。

はしたくないでしょう?」

 女性はそう笑顔で呟いた。

 この場合のの意味は京介も良く分かっていた。

「監視と脅しに来たのか?」

「いいえ。 脅しとは寧ろ逆よ。

 手伝ってあげようかな~ なんて」

「大きなお世話だよ」

 京介はそう言ってもう一度女性を自分から引き離した。

 京介は女性に背を向けると、校舎へ戻っていく。

「貴方はあの子をどうするつもり?」

 女性がそう呟くと京介はピタリと動きを止めた。

「二人くらいなら助けるのを手伝ってあげるわ」

 女性がそう言うと京介は疑うように女性を見た。

「本当に?」

「本当よ。 私はあの人より貴方の方が好きだもの。

 それに私と貴方なら言い訳しても大丈夫よ」

「どうやって助けるつもり?」

 女性は指をこめかみに当てて少し考えるような素振りをした。

「まぁ色々と方法はあるけど……。

 問題は貴方が彼にバレない様にやりたいかって事ね」

「出来たらバレたくは無いね……」

 京介がそう言うと女性は笑顔をうかべた。

「まぁ上手くやるわ」

「任務は手伝ってくれないの?」

「私はそっち向きじゃないの。

 そもそも貴方なら手助けなんて要らないでしょう?」

 そう言って女性は2年生の校舎の方向に向かって行く。

「じゃあ頑張ってね。 期待のルーキー君」

「その呼び方は止めてくれ……」

 京介はため息混じりにそう呟いた。

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