第57話 変態には変態をぶつけんだよ!
「……水だけでももらっておけばよかった」
あちらも大変そうだったから、あれやこれやといただくのに気が引けた。あれだけの数の魔物が周囲をうろうろしていたのだから、商人……というか、村人も食料を持ち込むことができなかっただろう。いくら助けられたといってもよそ者に分けるだけの余裕はなさそうだった。
だけど水くらいならもらえたかなくらいに思ってしまった。もう喉が乾ききっている。
「今さらですよ勇者様。それよりもうじき着きそうです」
「おっ、マジか!」
とくしまを廃人にするわけにはいかないため、休憩を挟みつつ移動。件の城を発見したのは昼前になっていた。
「とくしま、まだ大丈夫か?」
「あひぃ……、もうらめぇ……」
廃人寸前だった。済まない、無理させすぎた。
ここからなら歩けば昼過ぎにでも着くだろう場所で降り、とくしまをおぶって移動することにした。向こうに着いてから使いものにならないじゃ困るしな。
あとでとくしまには最高級まろまろにメッセージカードも添えてやらないと。
「それにしても酷い有様ですね」
「ああ。ここは元々村だったんだろうな……」
バラバラに砕けた木片の山が、かろうじてここに家が建っていたらしき跡を残している。
それに周囲も畑だった形跡がある。だがそれらは踏み荒らされ貪られていた。
住人たちは避難できたのだろうか。自分でも甘いと思うが、そういう心配をしてしまう。せめてもう少し早く来れれば。
「勇者様は相変わらず優しいですね」
「俺がなにを考えてるかわかんのかよ」
「わかりますよ。ここに住んでた人たちの心配してるんですよね?」
なんだかんだいってごくまろとも付き合い長いからな。そんなことくらいならわかっちまうか。
「……私と初めてするときも、優しくしてくださいね」
「そのときが来たらな」
「言葉質取りましたからね」
ああいくらでも取ってくれ。ただしそのときなんて永遠に来ないけどな。
これくらいで機嫌がよくなるんだからごくまろマジチョロい。
「それより勇者殿、なにか近付いてるね」
「ん? ──ああ、いるな」
近くの物陰に潜んでいる。せいぜい数人ってところか。これならごくまろでも対処できるだろう。
多分あの岩の裏辺りか。俺は足元の石を拾い、岩めがけて投げつけた。
「おぶぉっ!?」
ガツッという音と共に、驚いたような声が聞こえた。
「おい、隠れてないで出てこい!」
誰かしらいるのを確認してから話しかける。これで人間か魔物の類か判断できる。相手もこちらが人間だとわかればそれなりの対処をしてくるだろうし。
隠れていることが無意味だと悟ったのか、そいつらはのこのこと出てきた。
そして出てきた男のひとりが、俺たちを見た途端走り出してきた。
「ロ、ロロロ、ロリ! ロリ! ロリいぃぃぶげぁっ」
もの凄い速度で走り込んできたあいつへ掌底のカウンターを浴びせてやった。
「叫ぶな変態」
「あいてててて……。お、おいてめぇ、そりゃなんだ!?」
「うちとこの魔法使いズだ」
「お、おま、おま……」
「んこ?」
「てめぇは黙ってろ!」
突然割り込んできたちとえりに蹴りを入れると、あいつは俺に掴みかかって来た。
「てめこの野郎! ロリたんに蹴りとか死にたいらしいな!」
「まあ待て。あれが件のちとえりだ」
「えっ!? この愛らしいロリたんが例のロリババア様!?」
あいつが驚愕の表情を浮かべつつ、膝をついた。そして両手を地面へ叩きつけ「ガッデム!」と呪いの言葉を吐く。
「……それで残りのお二方は?」
「横にいるのがごくまろで、背負ってるのがとくしまだ」
「と、とくしまタンって11歳ガチロリの!?」
あいつは立ち上がり、再び俺の襟首を掴む。
「おーうぃ、てめぇ。なぁにロリと密着してやがんだゴルァ」
「仕方ねえだろ! 気ぃ失っちまったんだから! それとも放置しろってか?」
「俺を呼びゃいいだろが!」
「どうやってだよ!」
「なんのためのスマホだよ! 飾りかゲーム機か!?」
「こんなとこ電波こねーよ! そもそもお前の番号なんか知らん!」
更に言えば俺は持ち込みできない。それにもし全ての条件を満たしていたとしても、こんな下郎にとくしまは触らせん。
全く、折角来たと思えばろくでもないやつが出迎えてきたものだ。俺は襟を掴んでいたあいつの手を振り払うと、城へ向かって歩こうとした、
しかしそのとき、ちとえりがあいつの前に立った。
「ねえお兄ちゃん。お兄ちゃんも私に痛いことするの?」
瞬間、あいつは鬼の形相で再び俺の襟首を掴む。先ほどよりも断然力の入り具合が違う。
「てっめえええぇぇ!! 殺す!!」
「まっ、待て待て! 落ち着け! おぅいごるぁちとえりぃ! 笑ってんじゃねえ!」
「ふひゃふひゃ」
あいつと俺は殺し合い寸前の戦いを何度もしている。だから今のこれはシャレにならねえんだよ。
「落ち着けよ! あいつ見た目はアレだが、年上なんだぞ!」
「おめーバカか!? 見た目がロリなら全てロリなんだよ!」
「知るかボケえぇ!」
打撃戦ならともかく、掴み合いになれば俺のほうが有利だ。俺は掴まれている腕を掴み、隅落としで放り投げた。
「ぐぶぅっ」
「ったく、相手見て掴みかかれってんだ」
腕を掴んでいたから受け身が取れず、脇腹に直のダメージを与えてやった。これで少しは大人しくなるだろう。
「そ……それでも俺は、ロリたんを守る!」
「すげぇ執念だな。それよりもそこのロリモドキを触ってみろ」
「いいのか!?」
あいつは元気よく飛び起きた。なんて丈夫なやつだ。
なにかを感じ取り、逃げようとしたちとえりの腕をあいつが掴む。そして驚愕の表情を浮かべる。
「う……潤いがない……っ」
「だから言ったろ?」
「て、てめこのガキぃ! てめぇの精巣カッサカサになるまで搾り取ってやろうか!?」
「マジすか!? おなしゃっす!!」
爛々と輝く目であいつはちとえりを見る。ちとえりドンびき。自業自得だざまあみやがれ。
「やっ、こ、こいつマジモンね!? マジモンの変態ね!?」
「おめーもだよ……」
すげぇな。変態に変態をぶつけるとこうなるのか。ちょっとした社会見学だ。
「あ、あのロリたん」
「なんね!?」
「ズボン、脱いだほうがいいっすか?」
「あんたもう話さんで欲しいね! このド変態!」
「ああ、ロリたんが俺を罵ってる。ちょっと興奮するぜ」
ちとえりがまさかの完敗。あいつすげぇな。これからあいつ先輩って呼ぼうかな。
「凄いですね。ちとえり様があそこまでたじろぐの、初めて見ました」
「ああ。ここに来て正解だったな」
ごくまろまで慄いている。これはこれで見ておきたいが、本命はこれじゃない。コムスメに会っておかないと。
「お楽しみのところ悪いが、俺たちは先に行かないと」
「コラァ! 誰が楽しんでるね!?」
だって楽しそうじゃないか。よかったな、受け入れてくれるやつがいて。俺も助かってうれしいよ。
「それはそれとして、お前なんでこんなとこにいたんだ?」
「城へ向かってもの凄い速度で飛んでくるなにかがあるって言われたんで様子見をな。まさかお前だとは思わなかった」
「じゃあもう用済みだな。城まで案内してくれ」
「おうそうだな。じゃあロリたん。お兄ちゃんが連れて行ってあげるからね」
「触らないでね! 勇者殿! ヘルプ! ヘルプね!」
あいつ俺のとこにも来てくれないかな。
こんな感じで俺たちは城へ向かった。
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