平安陰陽騒龍記
宗谷 圭
第一章
第1話
それは、夜の事だった。
それは、月の無い暗い夜の事だった。
それは、月の無い暗い夜の、丑三つ時の事だった。
それは、月の無い暗い夜の、特に妖しの物が活発に動くとされる丑三つ時の事だった。
闇の中、ぞろぞろと蠢く気配がある。
ぞろぞろ、ぞろぞろとしたその気配は、長虫のようで。感じた者に悪寒を抱かせる。
「行きずりのお前を厄介事に巻き込み、心苦しいが……私の命運はもはやここまで。……私の使命を、お前に託したい」
ぞろぞろとした気配の中、低く、重い声がした。ぞろぞろとした気配がぴたりと止み、続いて、ずずず……という音がする。
そして、その音が消えた後はまた……辺りに、ぞろぞろとした気配が蠢き始める。
ぞろぞろ、ぞろぞろ。ぞろぞろ、ぞろぞろと……。
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