第4部



 直後、その破壊し損ねた一角から、こちらへ向けて急速度で一本の銛が迫る。

 童話主人公からの攻撃なので、ロマンダイナに直撃しても何らダメージは発生しないのだが、わざわざくらってやる理由も無いパンドラは当然、ロマンダイナを引っ込めながら身を翻しつつ攻撃を回避し、改めてウラシマを見据えた。

 桃太郎と大して変わらないくらいの背丈に、アクアブルーの髪をポニーテールで纏め、小麦色の肌と深い蒼の眼は、人間の男であれば思わず一瞬見とれていたであろう。

 だが、パンドラはそのどちらにも該当しなかった。

 そしてウラシマが宝玉の込められた銛に魔力を注ぎ込むのと、パンドラによるマルチビットの展開がほぼ同時に行われる。

 それからウラシマ達が立つ区画の両脇に、ポッカリ空間を切り取ったような穴が現れると、そこから大量の水が流れ込んできた。

「これは・・・・・・外の海水か」

 更に呼び込まれた海水は、ウラシマ操る銛によって、その意思を受けたかの様にうねり出し、パンドラ目掛けて今にも呑み込まんと襲い掛かる。

 しかしパンドラは、展開していたマルチビットでフォーメーションを組むと、それらで大型のフォースバリアを形成し、流れ込んでくる海水を押し返す事で、逆にウラシマを追い立てた。

「・・・・・・」

 コレに対してウラシマは、再び銛を超速度で伸ばし、マルチビットの破壊を試みるものの、それを阻むバリアを破る事が出来ず、乙姫を抱えて後退する事を余儀なくされる。

「(水属性魔法か・・)フム、ドレスチェンジ!」

 ここでウラシマが水属性使いと判断したパンドラは、雷を司るライトニングドレスへとドレスチェンジし、早期の状況打開を試みた。

 すると、ウラシマは何を思ったのか、再び銛を使って阻まれた海水を操ると、一気にフォースバリアで阻む境界を乗り越え、再びパンドラを襲う。

「!」

 フォースバリアによる抵抗が意味を成さなくなった事を察したパンドラは、早々にマルチビットのフォーメーションを解除すると、雷の髪を操り降り注がんとする海水に突っ込んだ。

 次の瞬間、ドンッという轟音と共に、大爆発を起こした海水が一瞬で水蒸気となり、リング・オブ・リュウグウ一帯の光景を多い尽くす。

『! 視界がッ・・』

「奴め、私にこうさせて視界を奪うのが狙いか。無駄な事だ」

 予想通り、濃霧の中を迷い無くパンドラ目掛けて襲来した銛を、パンドラは生体波導探知能力と【蝶・反・応バタフライリアクト】で難なく避けると、そのまま伸び切った銛を雷の両手で掴み取り、更に雷の髪でそれを辿って、その先にいるウラシマへ通電させた。

「・・・・・・・・・・・・!?」

「ムーンボルトキック」

 右脚に波導エネルギーをチャージすると、パンドラはフォースウィングを羽ばたかせて霧の中から脱出する。

 そして銛を手にしたままフラフラとよろめくウラシマ目掛けて、急降下しながら雷を纏った右脚を繰り出した。だが・・

「!?」

 直撃する筈だったムーンボルトキックに対し、ウラシマは突如、全身を液体状に変化させる事で、これを回避したのである。

「避けただと?」

 更に液状化したウラシマは、そのままパンドラを溺死させようと、パンドラの上半身を球体状に液体で埋め尽くした。

 しかし外見のみが人間とほぼ変わらず、呼吸活動を必要としないパンドラに効果がある筈も無く、パンドラは即座に【蝶・効・果バタフライエフェクト】でこれを脱すると、桃太郎を魔宝具形態で起動する。

 そこからパンドラは、モモノフブレイカーを地面に触れさせると、フィールドの地形を変化させ、地面そのもので液状化したウラシマを閉じ込めた。

「・・これで液状化も意味を成すまい。後は・・ん?」

 ウラシマを事実上拘束し、パンドラがそこからどう攻めようかと考え始めた瞬間、ウラシマを覆っていた地面が突然蠢き、更に周囲の地面を巻き込むと、ロマンダイナと同じ規模を誇る土で出来た巨大な粘土ゴーレムへと変貌を遂げたのである。

『これは・・・・・・!』

「ゴーレム・・それも粘土タイプの物か、迂闊だった。今出来る最適な手段を講じたつもりだったが、水に土でどうにかする物ではないな」

『ではどうするつもりだい?』

「こうなれば雷も意味を成さん。こうするしかあるまい、ドレスチェンジ!」

 パンドラが構えると、その周りを無数の木の幹が覆い尽くし、そして朽ちていく中から、木々で作られた手足と髪、角を持つオーガドレスとなったパンドラが姿を現した。

「折角デカくなったところ悪いが・・」

 そう言うと、パンドラは両腰と両脚の踵にあるアンカーウィップを地面へ突き刺し、そこを介して粘土ゴーレムを捕らえる事で、ウラシマの生命力を吸収しにかかる。

 粘土ゴーレムの足元から先端に棘の付いた無数の鞭が飛び出し、次々と粘土ゴーレムの全身へと突き刺さった。

 だが、そこからパンドラが生命エネルギーを吸い取り始めた瞬間、粘土ゴーレムがその大木の様な太い腕で殴りかかってきたのである。

「チッ」

 危うく、すんでの所で【蝶・効・果バタフライエフェクト】により攻撃を回避したものの、エネルギードレインを中断されてしまったパンドラは、再び粘土ゴーレムにエネルギードレインを仕掛けた。

 しかし、またも同じ結果となってしまい、結果として粘土ゴーレムからのエネルギードレインを諦めざるを得なかったのである。

「これでは奴からエネルギーを吸い取れん」

『どうにかして奴の動きを封じないと』

「それか他の攻撃方法を試すかだな」

『他の攻撃方法?』

「まず、奴が童話主人公である時点で、こちらの魔宝具は全て効果が無い。更に奴自身が液状化出来る上に、あのゴーレムの身体も本物の体ではない以上、どれだけ破壊した所で再生されるのがオチだ。つまり物理攻撃も意味を成さない。残る手段として、こちらが扱える七種の属性魔法の内、試していないのは三種。光と風は相性的に不利ではないが、特別有利というわけでもない。有効な攻撃方法があるわけでもないしな」

『・・て事はつまり残るのは』

「こういう事だ・・ドレスチェンジ!」

 次の瞬間、パンドラを真っ白なブリザードが囲い込み、氷柱の様に凍結すると、突然粉々に砕け散り、その中から新たなドレスに身を包んだパンドラがその姿を現した。

 髪の毛は銀色となり、半透明の白い結晶体で出来たクラウンが新たにシルクハットの上に施されている。

 加えて目を引くのが、彩度の薄いシアン色のゴスロリ服を覆う分厚い氷の鎧で、その重厚感はまるで戦車の様だった。

「・・大分重々しいな」

 自身の変化にパンドラは一言そう言うと、右手から氷属性のフォースボールを射出する。

 すると生み出されたフォースボールは、そこからサブマシンガン並の速度で次々と生み出されては射出されていき、粘土ゴーレムの左脚を瞬時に凍結させつつ、地面に縛り付けた。

 それを受けた粘土ゴーレムが脱しようともがく中、パンドラは更に左手からも氷属性のフォースボールを放ち、粘土ゴーレムの右脚、左腕、右腕と凍結させていき、全身の動きを封じていく。

 そして完全に身動き出来なくなった粘土ゴーレムに対し、今度は両手で氷属性の大型フォースボールを生成し撃ち放つと、とうとう粘土ゴーレムの全身を氷漬けにする事に成功した。

「さて、ここまでくれば後はどうとでも出来るか・・・・・・ん?」

 氷像同然となった粘土ゴーレムを見上げたパンドラは、そこで自身の腰から、氷の塊がピンについた状態で複数下げられている事に気が付く。

「コレは・・」

 ピンから引き抜くと秒針を刻む音を出し始めた氷の塊を、パンドラは氷漬けの粘土ゴーレムの方へと放り投げた。

 すると次の瞬間、氷の塊は耳をつんざく様な音を立てて爆発し、完全凍結していた粘土ゴーレムが粉々に砕け散ったのである。

『おぉ!』

「・・成程、凍結手榴弾か」

 爆発地点に残る巨大な氷の刺々しい山を見ながらパンドラは言った。




《浦島太郎編――第5部へ続く――》

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