第85話 清須デート1

 清須に着いた俺らは宿を探していた。


 滝川一益は自分の邸宅があるらしくそこに泊まるらしい。


 俺らはそこに泊まるか誘われたが、俺は政争に巻き込まれたくはなかったので遠慮した。竜也は俺らのことが心配らしく一緒に泊まってくれるそうだ。


 そんなこんなで清須の城下をずっと歩いていたのだった。



 「なかなか見つからないね」



 「そうだな」



 竜也は今、俺らとは別行動していた。


 そのため俺は佳奈美の2人で清須の城下を歩いていたのだ。



 「ねえ、忠志」



 「ん? どうした佳奈美?」



 「これって、あれだよね?」



 「あれって?」



 「あれは、……あれだよ」



 「あれはあれか。……よくわからないな」



 「絶対に分かっているでしょ」



 「……さあてね」



 俺と佳奈美は謎の攻防を繰り広げていた。


 お互いがこの状況を理解しているが、「あれ」と表現して誤魔化している。


 その「あれ」という言葉をどっちが先に言うのか。その勝負が今繰り広げられたいのだ。



 「ねえ、ねえ、分かっているでしょ」



 「わからなあい」



 俺はテキトーに誤魔化す。



 「ねえねえ、いい加減に認めてよ」



 「いやだよお」



 俺と佳奈美は2人で清須の城下を歩く。


 なかなか栄えていた。


 周りから見たら俺達はイチャイチャしているように見えるのだろうか。それともこの戦国時代でははしたないと思われているのだろうか。



 (あのお二人、距離近くない?)



 (若い男女がはしたない)



 ひそひそ。



 そんな会話を周りの人がしているように思えてきてしまった。


 でも、男女の関係があんなりきっちりしてくるのは西洋文化の影響だとは思うから戦国時代はプラトニックなことはなかったのでは。


 戦国時代は一夫多妻制だし、男色だしと今でいえばなかなかな性の状況があったはずだ。


 ……なんか、現実逃避というか訳の分からないことを言っていた。


 うん。気持ちを切り替えて切り替えて。


 とにかく、俺と佳奈美は「デート」という一言を相手に言わせようとしている。



 「さあさあ」



 佳奈美が迫ってくる。


 圧が強い。



 「お、俺はい、言わないぞ」



 「え? 何を言わないの?」



 「うぅ」



 つい口がすべってしまった。


 俺が言いたくても言えない。


 そういったことがバレてしまった。



 「何を言わないの?」



 「な、ななな。何って……」



 「えー、何ぃ?」



 「だ、だからそ、その、デ、デート(ぼそっ)」



 俺は恥ずかしすぎて小さな声でぼそっとデートという単語を言う。



 「……ほ、本当に言うとは……」



 俺の言葉に対して佳奈美も照れていた。


 お互いがお互い相手に対してヒットを与えていた。


 そんなこんななデートがまだまだ続くのだった。



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