第76話 夏姫VS滝川一益

 とりあえず、夏姫を滝川一益の元へと連れて行く。


 夏姫を直接滝川一益に見せることができれば今後の方針が何か定まるだろうという俺らの考えであった。


 竜也はいろいろと考えすぎていてオーバーヒートしていたため現在ポンコツ気味だ。そうなったのも俺らがいけないということもある。特に俺。


 戦国の知識があんまりにもなかったため竜也にかなりの迷惑をかけてしまった。俺つぃては本当に申し訳ないと思っている。あと、諏訪氏を探すと言いながらも本当の事佳奈美と一緒に散歩できるという嬉しさが勝っていた。実はあの夏姫や諏訪頼忠を見つけるまではかなり自分の中で浮ついていた。


 それを佳奈美や竜也にはバレていないと思いたいが……いや、思っている。



 「滝川殿、いいでしょうか?」



 俺らは滝川一益の陣の前にまでたどり着く。


 滝川一益の側にいる側用人を通して俺らが用があることを伝えてもらい中に入る。



 「で、何だ。此度の用とは何じゃ?」



 滝川一益が俺らに聞いてくる。



 (竜也が内容を話す?)



 (いや、もう野村君はいろいろと疲れているからやめさせた方がいいと思うけど)



 (いや、俺はもう大丈夫だ。だから、俺が話をする)



 (いや、しかし……)



 俺らは誰が諏訪氏のことについて滝川一益に話すのかでもめていた。


 こそこそと3人で話をする。


 それに見かねた人物がいた。


 滝川一益、ではなく夏姫であった。



 「あなたに話があります」



 いきなり強気で話をし始めた。



 「ほお。そなたは誰じゃ? 見たことない顔だ。そんな幼い娘が儂に何か用があるのか?」



 滝川一益は、夏姫を品定めするかのような厳しい視線を送る。


 夏姫はそんな滝川一益の強い視線をものともしなかった。


 堂々と話をしていた。



 「私の名前は夏姫。諏訪安芸守が娘なり。此度は我が家、諏訪について話をしに来た次第であります」



 「す、諏訪の娘だと」



 夏姫の名乗りに滝川一益は驚いていた。 


 かなり動揺が見られた。


 あんなに動揺している滝川一益を見るのは初めての事であった。



 「ええ、私が諏訪の娘です」



 「……野村殿。諏訪氏の生き残りを無事に見つけたようだな」



 滝川一益はまず俺らに話を振ったのだった。



 「ええ、そのようです。私が見つけたわけではありませんので詳しくはここの2人に聞いていただけると幸いです」



 「なるほどな。では、小田よ。諏訪氏はまずどこで見つけたのか聞くことにしよう」



 俺は滝川一益に質問を出された。


 その質問であれば俺でも答えることが容易であったので答えることにする。



 「諏訪湖のほとりに小さな家を建て、隠れ住んでいました。その家を偶然見つけ彼女、夏姫の父頼忠殿と直接会い交え話をした結果夏姫殿を滝川様に直接お見えさせ話し合いをするという方針になりました」



 日本語が緊張でおかしくなっていたような気がするが、戦国時代の日本は俺がいた現代とは言葉も大きく異なる部分があるのでどのみちおかしなことだらけであるとあきらめて会話をした。


 いや、それにしても本当に緊張してしまう。


 これが歴史の教科書にも登場する偉大なる戦国時代の人物か。



 「あい分かった。それでだ。夏姫殿。そなたら諏訪氏の所領について単刀直入であるが取り返したく思っている。



 滝川一益は、夏姫に対して話を直接し始めた。


 領地についての話を最初に持ってきた。それは、まさしく単刀直入であった。別の話題から入ればいいものをどうしていきなり最初に領地についての話から始めたのだろうか。俺は不思議に思えた。


 滝川一益の狙いというものが俺にはまったく分からなかった。


 それはあの竜也ですら同じであった。



 「た、滝川様は何を考えていられるのか?」



 俺らとだけのこそこそ話のつもりで話したわけではないようで、滝川様としっかりと礼儀にのっとった言い方を竜也はしていた。


 そのあたりやはり竜也は律儀であると俺は思った。



 「……何を考えているか? 野村殿には儂の考えが読めぬか?」



 竜也の質問に対して滝川一益はかなり挑発的な返事をした。


 俺の考えを読んでみろ。今の発言は誰がどう取ってもそのようにしか考えることができない。


 まあ、まず俺には滝川一益の考えが分からないから読むことなんてできない。


 だが、竜也ならどうだろうか。彼はいろいろと頭がいい。それに戦国の知識がある。滝川一益のやってきたことも知っているはずだ。



 「……」



 竜也からの返事はなかった。


 何だか嫌な予感が俺はしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る