第52話 そうだ京へ行こう



 「京へ行こうよ」



 「へっ!?」



 俺は驚いた。


 京に? わざわざ行く。



 「待て待て待て」



 佳奈美の提案に一番かみついたのは竜也であった。


 竜也がかみつくのは俺的には意外であった。



 「どうして待てって言うの? 野村君、何か問題でもある?」



 「ああ。問題大ありさあ」



 問題大ありさあってどこかで聞いたことがあるような言葉だが気のせいか。


 まあ、でも竜也は何に対して問題だと思っているのだろうか。



 「問題って何かあるのか?」



 佳奈美が竜也に聞く。


 そして、俺も竜也に聞く。



 「問題っていうのは、この時代って平和な現代日本じゃないということだ。京に行くのも危険なんだぞ。日本人は平和だし治安がいいからあまり気にしないが現代で言うところのシリアとか内戦しているような地域を思い出してくれ。あんな場所で旅なんかすることができるか? できないだろ。俺が言いたいのは、この時代は危険だから京に行くのも大変だ」



 「うーん。まあ、この時代だと山賊とかいそうだよね。そう考えると危険だね」



 「でも、種は関西に行かないとないんでしょ。昔の日本の中心は京をはじめとした関西圏なんだから」



 俺は、竜也に京にどのみち行かないといけないじゃないかと言う。


 だって、関東には種がないのだから、種がなければ食物を栽培することができない。それは当然のことだ。だから、どのみち行かなくてはいけないんだ。誰かが。



 「まあ、そうなんだが……誰かに頼むか。滝川様の使いも織田家……と言っても今は羽柴か秀吉に使いを送る頃合いだしそれについでにお願いするとかはできるんじゃないか」



 竜也は、知恵を絞って思いついたことを言う。



 「まあ、この時代の人に任せるっていうのもいいけど、やっぱり俺らの手でやりたいな」



 「わかる。私も忠志君と同じ意見だよ」



 「お前ら……」



 俺の話を今まできちんと聞いていたのか、とでも言いたそうなことを竜也は表情で見せた。


 まあ、ちゃんと聞いていたよ。危険だっていうことぐらいはきちんと分かっている。でも、やってみたいんだもの。仕方ない。



 「はあ、分かった。俺から滝川様に伝えておく。誰か、一緒に行ってもらえる人も聞いておく」



 「すまないな」



 「まあ、もともとこっちの要請で決めたことだから、それぐらい滝川様も計算済みだろう」



 それにしても滝川様か。様とわざわざつけて呼ぶようになったところ本当に家臣になったんだなと俺は感慨深く思っていた。


 家臣として竜也は一体どういうことをしているのだろうか。


 この世界においてどんなことをしているのか俺は気になった。


 しかし、竜也のことだ。きっと優秀な仕事をしているに違いない。



 「俺の仕事が気になっているような顔だな」



 俺は、まったく口に出した覚えがないが、竜也が俺の考えていたことを糸もたやすく当ててきた。何で、人の考えを読み取ることができるんだよ。サイコメトラーか。メトラーなのだな。


 俺は驚愕していた。


 が、竜也は、



 「お前の表情は分かりやすいんだよ。俺がどんなことをしていたのか考えているような表情をしていたから当てたまでよ」



 と、答えた。


俺って、そんなに表情に出ているのだろうか。


 何か、釈然としなかった。



 「俺の役目は軍師みたいなものだ。あれだ、有名どこだと、武田家の山本勘助とか、上杉家の直江兼続とか、今川家の太原雪斎のような存在をしているだけだぞ。この時代の知識を豊富に持っているからこそこの後どういうことが起こるか予想をすることができるから俺的にはやりやすい仕事だ」



 竜也は自分がどんな仕事をしているのかすんなりと答えてくれた。 


 軍師をしているらしい。軍師って、作戦を立てたりする人のことだよな。竜也が、俺が戦国の知識が薄いことを知って小ばかにしているのか軍師の具体的な人の名前まで出して簡単に説明をした。


 そりゃあ、俺だってその辺の人物は知っているけど……嘘。太原雪斎って誰? 今川家に軍師なんかいたんだ。でも、桶狭間で大敗北しているじゃん。この軍師って結構ダメな人だったのだろうか。



 「野村君……忠志君に太原雪斎は難しすぎるよ。あの人の存在は戦国好きだと結構いいけどそれ以外だと知名度が少し……」



 「ああ、そうだったな。あの人さえ生きていれば織田家に今川は負けていなかったともいわれるような人だからな」



 俺が、分かっていないことをいいことに2人で会話を進める。そして、会話の中から太原雪斎が意外と有能だということもわかった。さっき、俺が頭の中で考えていたことを正直に口にしていたら多分、いや、確実にこの2人に怒られていただろう。それほどの傑物だとは。



 「とりあえず、少し待っていてくれ。ちょっと滝川様に聞いてくるから」



 竜也は、そう言って部屋から出ていった。



 「あいつ、何を考えているんだか?」



 「まあ、野村君ならどうにかしてくれるでしょ」



 「結構、信頼しているみたいだね」



 「えー、何、忠志君、嫉妬? 嫉妬しちゃってるの?」



 「そ、そんなことないし」



 「ははは、反応見ていておもしろいね」



 佳奈美にからかわれた。


 それは、竜也が戻ってくるまでの時間にして10分程度続いていたのだった。そして、竜也は、ある提案をしてきた。


 その提案とは……



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