第30話 方針は決まった

 神流川の戦いでの本来の歴史であると勝つのは北条、負けるのは滝川一益である。これは、俺達がいた元の時代での通史となっている。それをこの時代にタイムスリップした俺らは変えようとしている。過去を変えることの難しさはわかっている。でも、やることにしたんだ。


 ……さて、そんなことを思ってはいるが、俺自身として考えることはなかった。なぜなら、



 「ここで、こうすればいいんじゃないのか」



 「そうね。神流川の戦いにおいて上野衆の戦への士気がやはり重要だわ」



 「では、やはり本領安堵とか何か褒美となるものを用意する必要があることになるな」



 「そうね。そのあたりは滝川一益に直接要求すればある程度は聞き入れてくれるんじゃないか」



 「じゃあ、その方向で行こう」



 「ええ、そうね」



 俺抜きで会議が進んでいるから俺は考える必要がないようだ。


 そもそも俺は戦国の専門家ではない。俺が好きというか専門としていた分野は近代史だ。近代と戦国には多くの差がある。武器とか全然違うし政治体制が違うからな。この時代の戦の方法は知らない。日本軍の戦い方ならば知っているが、そんなもん役に立たない。あ。でも、戦国時代に自衛隊とか日本軍とかがタイムスリップする作品はちょこっと噛ったからあれを参考にすれば役に立つかもしれないと思った。……でも、あれって戦国時代に現代の武器が一緒に来ているからこそできるものなんだよな。高校生がマシンガンやら戦車やらそんなもんを持っているわけがない。


 結局のところ俺は会議に参加することができないことには変わりがないな。



 「……」



 「そうでね。そうすれば─」



 「ああ、なるほど! それはいい案だ」



 「……」



 俺は、2人の会話に加わることができず端っこで体育すわりをしていた。うん。完全にいじめられっ子のスタイルだった。いや、俺自身いじめにはあったことがないけど、多分いじめにあっている子はこんな風に隅っこでひっそりと暮らそうと心掛けているのだろう。今の俺がまさにそれだ。というか、隅っこでひっそりとしようと心掛けているわけもなくひっそりとするしかないからだ。絶対にあいつらの会話に混ざることができないのでおとなしくしているとしてもやることがない。だから体育すわりをして黙っているのだった。


 ああ、早く会議よ終わってくれ。


 ……



 「小田君、小田君!」



 「は!」



 知らないうちに俺はどうやら寝ていたようだ。


 俺を呼ぶ歌川の声で目が覚めた。



 「いや、寝てません!」



 「いやいや、完全に寝ていたでしょう。何で、は! って目を覚ました次の言葉が寝ていませんなの?」



「バレていないと思いました……」



 「それはさすがにつらいかな」



 「ああ、無理だと思う」



 「そんなあ~」



 「まあ、そんなことよりも話の本題に入るが、小田。いいか?」



 「本題って何だ?」



 「寝ぼけているな」



 「いいか。俺らは今神流川の戦いの滝川方の勝利する方法を考えるという話だっただろ」



 「ああ、そういえばそんなこと考えていたな」



 「小田君……」



 歌川に冷たい目で見られたので俺は、おとなしく黙ることにする。っていうか、怖い、怖いよ。歌川さんよ。何でそんな冷たい目で人を見ることができるんだよ。


 ちょっと、女子の恐ろしさというものを思い知ったが、これ以上無駄なことを考えるとまた怒られるので竜也の話を素直に聞くことにする。



 「俺らがまずやるべきことが何かというと滝川軍をまとめることじゃないかと思う」



 「滝川軍をまとめる? そもそも軍というのはまとまっているからこそ軍と呼ぶんじゃないのか?」



 「ああ、小田はそういえば専門が近代史だったな。近代の軍というのは確かに国家の名のもとに上官の命令は絶体、動きも精錬され、まとまった集団であるととらえるのも不思議には思わない。が、戦国時代の軍というのは1つにはまとまってはいないんだ。まず、軍に参加するのは農民もって話は少し前にしたよな。お前が今農民として客将扱いとなっているのもその関係だと説明したはずだし」



 「……ああ、そんな話し合ったな」



 「忘れてたな」



 「忘れていたね」



 俺の微妙な間を2人に読み取られてしまった。


 態度に出さなければバレなかったが、うーん。難しい。



 「まあ、話を戻すがそういうこともあり農民というのはいやいやながら参加しているケースが多い。なので、勝ち戦の時は付いてきてくれるが負け戦になったとわかったら戦場から一目散に離脱していく。だからこそ、ここが戦国時代の戦において注視すべき点なんだ」



 「そうなのか」



 「そうよ。だから、私たちがやることの1つは農民の人がいかに軍から離脱していかないか考えること」



 「それとだ。滝川軍に参加しているのは上野の国衆もだ。その人たちをいかに味方に付けるかも大事だ。神流川の戦いに参加していなかった国衆もいることを考えると戦力を増やすためにも呼びかけることは大事だ」



 「じゃあ、今からでも行動しないとな」



 「ああ、神流川の戦いはもう始まってもおかしくない。俺らが知っている歴史だと数日で勝負がついてしまう。勝負がつく前に結果を変えるために動くぞ」



 「「おー!」」



 俺と歌川は竜也の言葉に同意する。


 でも、その前に……



 「夜だし、1回寝ないとそろそろ限界なんだが……」



 「先ほどまで寝ていた人が何を言っているの」



 俺は、またしても歌川に冷たい目をされたが陣地にとりあえず戻って寝ることを提案し、3人して陣地に戻るのであった。



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