第13話 防衛



 正行は部屋から脱出することにした。


 扉から出ていく。


 人がいる気配は全くない。



 「誰もいないのか?」



 全面戦争と詩織は言っていたことを正行は思い出す。


 全員、本部から出払ってしまったのか。いや、それはおかしい。


 正行はすぐに考えを変える。


 そもそも本部を攻められたらおしまいだ。誰か、本部を守る要員を置いておかなくてはいけない。


 だとしたら、誰かがこの本部の中に入るはずだ。正行は誰がこの本部を守っているのか考えてみる。



 「誰がいるのだろうか?」



 しかし、本部を守っていそうな人はいない。


 人の気配を感じることができない。


 そのことに正行は違和感を覚える。



 「なぜ、守る人がいないのか。全員が攻撃要因になってしまえばここの本部が落ちた時に完全に負けだ。そう考えると誰かいないといけない……誰が……」



 正行は考える。


 ずっと考えている。


 しかし、答えはなかなか出ない。


 いや、一つだけ思い浮かんでいた。それは、詩織らしい考えであるものだった。だが、それが正しいものかどうかは判断することができない正行は頭の隅へと追いやる。



 「とりあえず、ここから出よう」



 「ふふふ。出れると思っているの?」



 「! だ、誰だ!」



 正行が本部の出入り口に向かって独り言を言い歩いているとふと誰かが声をかけてきた。


 さっきまで人の気配がなかったというのにいきなり現れたことに正行は警戒する。



 「誰、か。なるほど私の名前を知りたいのね。いいわ、教えてあげる」



 「いえ、結構です」



 正行は断る。



 「いや、そこはきちんと名前を聞きなさいよ」



 通路は暗くて見えなかったが、明かりがある場所に2人は少しずつ移動していた。


 声からして女だということは正行にはわかっていた。



 「私の名前は中村美緒。榛名団第三部隊部隊長よ。よぉく私の名前を憶えておきなさいよ」



 「は、榛名団!」



 正行は榛名団という名前に反応をする。


 まさか、妙議団本部にすでに入り込んでいるとは正行は思ってもいなかった。


 そして、榛名団が入り込んだことでさっきまで詩織の考えを否定していたが、正行はここを守っている人物が誰であるのかに行き当たる。



 「ははは、詩織も悪知恵が働いて困るぜ。まさか、ここの最終防衛ラインに勝手に俺が任されているとは。嫌がる俺を予想して隔離したのか」



 正行は、隔離室にとじこまれたはずである。しかし、実は扉が開いていた。それが意味することは正行はこの戦いに反対することは詩織には読めていたことだ。その上で隔離室に閉じ込めることで正行が戦いに参入する時間を遅らせた。正行が、隔離室の扉が開いていたことに気づいた時にはすでに榛名団が侵入しており正行は自然と本部の守備をしなくてはいけない。そんな状況を作っていた。



 「何を言っているのかわからないけどね。今、私達は敵同士。ならば、ここで戦うのは当然のことよ」



 「当然の事、か。そもそもどうして敵同士なのか。それすら俺には太だ疑問なんだが」



 正行は、この戦い事態に懐疑的である。


 そのため、敵同士と言った美緒の言葉にくぎを刺す。



 「榛名団と妙議団は勢力圏をめぐって争っている。勢力圏とはすなわち各団の資金源、行動を行う上で必要となる物資の確保においても重要な存在なのだ。だからこそ、勢力圏をめぐる争いというのはセンシティブにならないといけない!」



 正行の疑問に対して美緒は答える。


 最後の方怒号に近いようなものであった。



 「そんなに怒ってはいけないよ。かわいい顔がもったいない」



 正行はギザなことを言う。


 明かりによって美緒の顔は見えていた。


 自分と同じぐらいの年齢すなわち高校生だろう。ショートヘアー、胸はあまり大きくなく、目は細かった。黒を基調としたズボンとシャツを着ていた。


 運動が得意そうなタイプだと正行は予想する。


 果たしてあっているかどうか。


 戦いでわかる。


 正行は乗り気ではないが、ついに本部防衛戦が始まった。

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