永遠の一花

慧 黒須

Prologue

 高校一年にして、魔術が大好物の女子高生がいた。

 彼女は魔術以外は淡白で、おかしな少女だった。


 そして今日も、召喚術を行う。

 カーテンを閉めて真っ暗にした部屋の真ん中で、蝋燭ろうそくを灯す。

 その蝋燭が僅かに照らす部屋の中は、殆どが魔術関連の分厚い本ばかりだった。

 彼女の口から言葉が紡がれる。


 唇を噛み締め、また口を開く。

 約一・二分。

 溜息と共に蝋燭の火が消された。


 彼女はカーテンを開け、電気をつけた。

 眩しさに眉をしかめる。


 ベッドに腰掛け、絨毯の上にある画用紙にマジックで書いた小さな魔方陣。

「やっぱり大きいのじゃないとだめなのかな…。てかそもそも、供物に飴玉一個は安すぎた?」

 うなり頭を傾げながら考え始める彼女の視界の端に、黒いモノが見えた。


 唸るのをやめ、ゆっくりとその物体へと視線を向ける。

 ガリゴリと音が聞こえるのは、食べている音だ。飴玉を。

「……」

 目が合った瞬間、その物体はニヤリと嗤った。


 小さな角に手足。尻尾の先は尖った、黒い存在。

 まさしく悪魔だった。

 しかし、彼女が想像していたモノよりは可愛らしいものだった。


「…オマエ、コイ」

「……喋った」


 悪魔は小さな手を勢いよく合わせ、広げたと同時に黒い球体が出現した。


「サワレ」


 彼女の前に球体を浮上させ、触るよう促す。

 恐怖よりも好奇心が勝った彼女は、人差し指ではあるが触れた。

 悪魔が嗤ったと同時に、吸い込まれるようにして球体と共に消えた。




 まるで現実ではないような、夢のような時間が続いている。

 今も、命綱なしのバンジーをしている気分で、彼女は地面に向かって落ちている。


「おや」


 その真下にいた男が、手で影を作りながら見上げた。

 持っていた肩まである長い杖で再度地面を突く。

 影を作っていた手を、目を細めながら降ってくる彼女に向かって伸ばすと急降下をやめ、ゆっくりと降りてきた。二歩下がる。


「気分はどうかな、お嬢さん」

「…………死ぬかと思いました。ありがとうございます」

「どういたしまして。でも、死ぬと思った人はそんな平気そうな顔はしませんよ」

「展開が急すぎて表情が追い付いていないだけですよ」

「……なるほど」


 彼女は尻を地面に着く形で着地した。

 砂を払いながら立ちあがる彼女に向かって男は更に質問した。


「空から来たようですが、どちらの生まれですか? 良ければお送りしますよ」

「…こことは違うところから来ました。所詮異世界ですね。私は別にあんなとこに未練はないのでいいんですが、しょーじき衣食住がない私にとっては今正に最悪の事態に陥っている訳で辛いです。とりあえず、ここがどこで、どのようにして暮らせばいいのかとか常識とか基礎とか諸々教えてもらえば嬉しいんですけど、そういえば貴方は魔術師か何かの人ですか」


 よく噛まずに言えたものだと男は感心した。

 とりあえず男は最後の質問に頷く。

 すると途端に彼女の態度が淡白なものから豹変した。


「私を! 弟子にしてもらって良いですか!!」


「我は汝の死をもって復讐する」という殴り書きのTシャツに体操着の短パン。その上に羽織るのは黒いローブ。そして裸足。

 そんな彼女は、弟子にしてと申し出た。

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