第九十五話 影絵
「人生というのは、影絵のようなものだと思いませんか?」
「どうしてだ?」
「あなたは自分が主人公だと思って行動しているのに、誰もあなたを見ない。見られているのはあなたの影だけじゃないですか」
「ふん。それはあんたが影しか見てないからだよ」
「そうですか?」
「俺は、俺のしたいように振る舞ってる。それは誰かのためじゃないよ。俺がそうしたいからさ」
「ほう。ではあなたは自分の虚実のどちらを見られても構わないということですか?」
「と言うか、誰が虚実なんてものを区別出来るんだ? 俺自身ですら、それを区別出来ないのに」
「む……」
「影には元から中身がないんだよ。それを自分だと思い込むと、自分の中身もないように見えてしまう」
「……」
「実体のないものには影が出来ない。それにさえ気付けば、影なんざどうでもいいってことが悟れる」
「ひどいなあ」
「ひどい? 影なんざなくなったってなんの支障もないよ。そんなものに気を取られて振り回されるやつは、とことん不幸だと思うがな」
「わたしは……不幸の根源だってことですか?」
「違うよ。影には影だっていう意味しかないってことさ。それに幸も不幸もないよ」
影絵だと思い込むと、影にもし色があっても見落としてしまう。
そして、見落とされたものの中にあなたが入っているかもしれない。
【 了 】
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