第八十話 厂木木止 凵丈

 全ての歴史は後付けであり、勝者の論理で造られる。人が書き残し、語り継いだものの中には、意思はあるが真実があるとは限らない。そもそも全ての歴史は風化していずれ消え去るものであり、史実という言葉自体が誤っているのである。


 風化しない? なんという戯言ざれごとを。これまで生を受けてきた人物全ての歴史を正確にたどれるというのならば、私の過誤を認めてもいい。だが残っているのは、ほんの一握りの愚者の痕跡だけではないか。


 歴史という名の欺瞞。それをむきになって否定しようとする者らがいて。彼らは最後に神を拠り所にしようとする。しかし、神は史実以上に存否が不鮮明な存在である。それを確実性の論拠にするなぞ、致命的な自己矛盾だ。


 かくして。跡としての歴史とは別個に、今日も歴史は造られていく。(作られるでも、創られるでもないことに留意)



【 了 】

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