第五十八話 口

ええと。

カタカナのロではありません。

丸三角四角の四角ではありません。


食べ物飲み物を取り入れ、代わりに何かを吐き出す。

そう口です。


口一つってのは寂しいじゃないですか。

だからもう一つのっけて、『日』。

そんな日常がいいですよね。


ただ、それ以上増えるとだんだん雑駁になってきます。

お下劣にならないためには、きれいに並べる『品』が要りますね。


もっと増えると、無節操に散らかります。

それを収納する大きな『器』があるといいですね。


◇ ◇ ◇


口にする。

覚悟が要ります。入れるにしても、出すにしてもね。

毒も薬もありますから。


口が重い。口が軽い。

口の重さをどうやって測ったんでしょうね。

口だけを秤に載せるのは難しいと思うんですが。


口が堅い。

自分でそう言う人ほど、油切れで顎の蝶番がばかになっていたりします。


口寂しい。

そう思っているのは口じゃなくて、胃袋です。

うそついちゃいけません。


口惜しい。

そう思っているのは口ではなく、脳みそです。

うそついちゃいけません。


ええ、そうですね。

口はあなたの代理人です。

あなたが思っていること、感じていることをそのまま発します。

決して勝手に口走ることはありません。

だって、口には足なんかありませんから。


口を開くと。

何かいいことがあるんでしょうか?


口を割ると。

何かいいことがあるんでしょうか?


分かりません。

口を閉ざして、しばし考えます。

なんで悪口はあるのに良口はないんだろうって。



【 了 】

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