第六十話 噛み合わない

「どうされました?」

「どうも噛み合わせが悪いんです」

「漏れますか?」

「ええ。漏れて困ってます」

「それは大変ですね。早速治療しましょうか」

「あの……噛み合わせが悪いのって、治療出来るんですか?」

「ああ、それは最後まで噛み合わないです。だから漏れるんですよ」

「……。漏れを止めるしかないってことですか」

「そうなりますね」

「漏れはどうやって止めるんですか?」

「そんなの止められませんよ」

「え? それじゃあ治療にならないんじゃ……」

「みんな、思い込んでるんですよ。いつかは噛み合う。いつかは漏れが止まるって」

「違うんですか?」

「あなたと私の話が噛み合っていないように、それは未来永劫噛み合うことはないです」

「じゃあ、治療って?」

「噛み合わない。だから漏れる。それが自然の摂理だってことを納得してもらうことです」

「……」

「噛み合わないのが異常なんじゃない。噛み合うことが異常なんですよ」

「そんなあ……」

「それを完全に塞いでごらんなさい。漏れることが出来なかったものは膨らんで、破裂するだけです」

「……」

「涙や吐息で漏らしていた方がずっとマシでしょ? 暴力や流血で破裂するよりは」



【 了 】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る