ミルキー・ウェイ~仔猫と郁彦と私〜
あずみじゅん
第1話
その日は朝から雨だった。梅雨独特の、あの鬱陶しい湿気はどこへやら、足の先から底冷えしてくるような、コートを羽織りたくなるような朝だった。前夜のテスト勉強が堪えているのか、頭がボーっとして眠たい。この寒さの中眠たいって、しっかりしろ自分!受験戦争はとっくに始まっているんだぞ!自分に喝を入れ、学校へ向かう足を急がせた。
「よっ!朝から随分フラフラしてんな。大丈夫か?」
「痛っ!!」
私の肩を勢いよく叩き声を掛けてきたのは、同じクラスの「鷲崎郁彦(ふみひこ)」。私と郁彦は所謂幼馴染というやつで、お向かいさんの縁だか何だか知らないけど、休日にはバーベキューしたりキャンプに行ったり。親の意向で同じ幼稚園に入ってからというもの、一緒にいることがもはや当たり前の日常になっていた。要するに家族ぐるみの付き合いをしている、かなり親しい幼馴染なのだ。
「何だ。また夜更かししてマンガ読んでたのか?」
「あんたじゃない!期末に向け勉強してたの!」
「へぇー、関心関心!」
そう言うと郁彦は笑いながら、私の頭をポンポンと叩いた。
「もう、やめてよ。そうやって頭叩くの。」
「何で?いいじゃん、別に。」
「良くない!ここ、通学路!どこで誰が見てるとも限らないんだからね!」
「俺は別に見られても構わないけど?」
「あんた良くても私はイヤなの!」
「そう朝からキリキリするなって。」
キリキリさせてるの誰?あんたでしょう!・・・喉まで出掛かったが言うのを止めた。これ以上公道で無益な言い争いはしたくない。
「ところで詩織。決めたのか、大学?」
「決めたけど。」
「どこにしたんだ?」
「教えなーい!」
「何でだよ。いいじゃん、別に・・・」
「あんたと同じ大学に行きたくないから!」
「何、俺が詩織追っかけて同じとこ行くって?」
「高校、そうやって志望校変えたでしょ!あんたならやりかねない。」
「そんな俺といるの、イヤ?」
「イヤだ!」
「それ、マジで言ってる?」
「真面目も真面目、大真面目です!幼稚園からずーっと、しかも同じクラスって何の呪い?嫌がらせ?有り得ないでしょ、ホンっと。」
「そこまで言う?」
「言う!六、三、三とこの十二年、あんたのお陰でどれだけ嫌な思いしてきたか、あんただって知ってるでしょ?だから、大学からはあんたの顔見ない生活送りたいの!」
「いや、俺のせいじゃないだろ。それって単なる八つ当たり・・・」
「あんたが!いつまでも彼女作んないでフラフラしてるから、そのとばっちりにこっちは巻き込まれてるんだからね!」
「えーっ、言いがかりも甚だしいなぁ・・・」
「とにかく!側寄んないで!」
イケメンで勉強が出来てスポーツ万能。マンガや小説の主人公みたい、絵に描いたような男子の郁彦。当然、女子達が放っておくわけがない。あいつがモテるのは小さい時から見慣れてる。だからそれはいい。誰が郁彦を好きになろうが私には関係ない。問題なのは、私。私は幼稚園の頃からずっと、密かな恋心を郁彦に抱いている。勿論郁彦は知らない。顔合わせれば憎まれ口しかきかないんだ、気付いてもらえるわけない。というより、気付いて欲しくなくて、わざと憎まれ口をきき続けている。いつからこんな風になったんだろう・・・もともと気が強い方だとは思っている。素直じゃないのもわかっている。だから、こんな可愛げの欠片もない私の側に郁彦がいるのは間違いなんだ。いい加減、もう子供じゃないんだからそれくらいわかってよ・・・だから私は憎まれ口をきき続ける。郁彦は、私の側になんかいちゃいけない・・・郁彦にはもっともっとお似合いの人がいる。たかだかお向かいに住んでいるっていうだけの付き合いは、もう勘弁して・・・自分でもどうしていいのかわからない感情は、思春期独特の感傷なんだと言い聞かせた。
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