第3話「人形の誇り」23

 金色の髪に大きな青色の瞳、白い肌に見るからに優しそうな表情を湛える顔立ち。女子だ。しかも相当な良家の。何故、この男が――昴が――そのような者と一緒に居るのか。嫉妬などではない。頭を振ってもう一度女子生徒を見てみると。


「……?」


 記憶を辿ると、見覚えがあった。学院内ですれ違った程度ではなかなか記憶に残らないだろう。どれだけの生徒数が居るのか、など考えた事もないのだがかなりの数であるはず。その中でも見覚えがある。否、学院内ではない……? どこかで。どこだったか――そこで漸く繋がった。


「じゃあとりあえずこの続きは明日にして――」


 昴が明日の予定を立てている時だ。体が急に傾き、引っ張られる。何事かと頭を働かせるよりも先に首に圧迫感。それと耳元に投げられる囁き声。


「お、おい……なんでお前……!」


「何だよ何の話だ? 痛いんだけど……」


 強引にレイセスから引き剥がされ、更には首を絞めるようにされているのだ。それもなかなかの力で。意味もわからず拘束される筋合いはない。


「どこで知り合ったかは知らねえが……なんで……」


 一度だけ、レイセスの方に視線を送る。突然の出来事に目を丸くしていて、割って入ろうとはしていなかった。だからこそ更に小声で、強く。


「なんでお前が姫様と一緒に居るんだよ……!」


 思い出したのだ。そんなに前でもなく、かと言って近いと言う訳でもないが城に連れて行かれた事を。最初は自分も両親も反対していたのだが、モルフォがどうしても、と願って。その時に会った。レイセス、この国の姫殿下と。忘れるはずもなく、忘れるなど失礼だ。


「あぁその話か……」


 しかし昴は至って冷静。そろそろ疲れも出て来ているのかもしれないが、あくまでも落ち着きを払った語調で言う。


「簡単だよ。俺がレイの“アイギア”ってやつだから」


「はあ!? お前が? 嘘だろ?」


「いやいやマジらしいぜ。自分でも良くわかってないけど……あとレイはそういう風な扱いが……姫様だって言われるの嫌らしいから気を付けろよ」


「……意味がわからねえ。いや意味はわかるが……」


 昴から腕を解き頭を抱えるセルディ。理解の範疇を超えているのか顔を歪ませながら言葉を呑み込もうとしている。


「あの、どうかしましたか……?」


「いや! な、何でも……! じゃあオレは、これで……!」


 背中越し、男二人の密かなやり取りに疑問を抱いたレイセスが声を投げた。するとどうだろう。普段は厳つい刺々したオーラを周りに撒き散らしているセルディが、奇妙な笑みを浮かべながら、更には何度もお辞儀をしつつ走り去るではないか。


「……?」


「あー……ほら、あいつモルフォの兄貴だろ? だからレイの事知ってたみたいでな。普通にしてて大丈夫だって言ったのに」


「そうでしたか……モルフォさんとはあまり似てない方なんですね」


「まあ似てないな。性格的にはな。悪い奴じゃないと思う……元気出しなって」


 学院内では身分を隠している理由がこれなのだ。苦手ではあろうがモルフォの方が接しやすいのかもしれなかった。


「いえ、大丈夫です! それではまた明日にする予定で――」


 再び走る足音が耳に届き、レイセスは言葉を止めて、首を傾げる。今度は誰だろうか。


「……おいモロボシ! ここに居るって事はグンの所に行くつもりだったんだな? ……グンの居る実験棟というか部屋は……めんどくせえな。こっちだ!」


 戻ってきたのはセルディだ。言われはしたが、いきなり姫殿下に言葉を投げ付けるのは無粋だと判断し、あくまでも昴に対して言葉を投げる。そして説明するのを省く為、指を差してから歩き始めた。


「ほらな? 悪い奴じゃないだろ?」


「ふふっ……そうみたいですねっ」


 早足で進んでいるセルディの後ろへと駆け寄る二人。

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