第3話「人形の誇り」09
――教員棟まで続く道も至る所で黒煙が上がり、舗装されて歩き易かった通路も今ではすっかり穴だらけ。一体何がここまでさせたのか。
「教師共は見事に出払ってるな……仕方ねえ学院長のとこまで行くか……」
昴の世界で言う所の職員室はもぬけの殻。どうやら事態収拾の為に全員が出てしまっているようだ。これでは警備も何もないと思うのだが、これで良いのだろうか。
「まともな学生なら今みたいな状況でもほとんど出て来ないからな。それに中で何かやらかそうとすると……まあ色々大変な事になる」
「色々ってなんだよ……」
言いながら足早に進むケンディッツ。向かうは先程口にしたように学院長が居るあの部屋だ。昴に掛けられた肉体強化は未だ健在らしく、重い人形を担いで歩いていてもしっかりと付いて行けている。
『要件――』
「おーい学院長、入りますよー」
最初に来た時は扉を挟んで仁王立ちする二体の石像に認証されて漸く入る事が出来た。しかしケンディッツはそれらを無視して扉を押し開けようとするも――
『侵入者を検知――』
「うるさいな。俺だよ。緊急だからちょっと黙ってろ。な?」
侵入者に対しての防衛機能が働き、迫り来る巨大な拳。容赦ない鉄槌だ。しかしケンディッツはそんな物を気にしようともせず。部屋の中へ。
「まったく……止めなかったらどうするつもりだ?」
部屋の奥、相変わらず逆光を従えるのは幼い声。姿こそ小さいが大きな存在感を放つ、この学院の一番偉い人間だ。
「止めるってわかってたんで。それよりも、原型が残ってる首謀者捕らえてきたんですよ。おい、入れよ」
促されて入室する二人。その姿を見た学院長は小さな手で頭を抱えて溜息を吐く。
「はぁ……またお前なのか……」
「またってなんすか? 俺まだ何もしてないっすよ」
「バレてないとでも思っているのか? ここは私の領地だぞ? 夜中にこそこそと……なあケン?」
「おっと何の話ですかねえ」
「レイシア、君も付き合う人間は考えた方が良いぞ。君の場合は特に」
どうやら学院長は昴が夜に寮から抜け出して犯人探しをしていた事、ケンディッツがそれを黙認していたという事実を知っているらしい。放置していたという事は咎めるつもりはないのだろうが。
「まあ、良い。それで首謀者は? そもそも人?」
「さすが話が早いし頭も回りますね。残念ながら、人ではないですな」
「……クレイ家か? だとしてもわざわざあの家が騒ぎを起こそうとするか?」
「そこまでは俺も知りかねます。他人の家庭事情なんてどうでも良いですから」
昴はそんな会話を耳にしながら背負った人形をどうすべきか考える。床に置くべきか、それとも壁に立て掛けるべきか。どうにかしようと思ったが、やめた。
「ただ数が尋常じゃないんですわ。俺だけでも十機は壊してます」
「人形遣いの中でも相当腕のある人物……その線で探らせてみよう。もちろんケンも参加だぞ。拒否権はない」
「……わかってます」
無言の圧力である。
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