第2話「異世界での生活」04

 総合学一科。国を代表する王侯貴族の子息たちが軒並み名を連ねる、超が付く程高貴なクラスである。しかし名前だけではなく、勿論その能力も折り紙付きで、これからの進路には何不自由しない人間の集まりだ。

 この学院には昴の世界で言う所のクラスというものは五つ、そのどれもが成績で決められている。

一科から五科まであり、文字通りその配分は完全な成績順。

ただ、総合学ともなれば人が居るのは二科までであり、残りは空き教室となっているようだ。総合学は何分敷居が高く、専攻して学んでいる生徒の方が多いらしい。

 そしてその総合学に含まれるものは商学、工学、戦闘学、魔法学の四つ。各々読んで字の通りだ。総合学はその全てを網羅するというとんでもない学科なのである。

 そこに飛び込んだのは、ただの男子高校生。諸星昴その人だ。例によって編入生を紹介する方法は、廊下で待たせ、後から名前を呼ぶ……ではなかった。ひそひそと話し声が聞こえる中、昴はレイセスの隣に腰掛けている。

 教室は階段のようになっており、身長差で黒板が見えなくなる事はないのだが、その分距離がある。視力が悪かったらここに人は居ないだろう。どうやら席順は自由らしいが。


(……悪口じゃないからまだマシ、か)


 興味はあるが、話し掛けられないといった雰囲気だ。視線を浴びるのは構わないのだが、これでは授業が始まってもこのままなのではないだろうかと思っていると、始業を知らせる鐘が鳴り響く。それと同時。教室前方の扉が開かれる。


「相変わらずフェノン君以外は……揃ってるね。さて皆ももう知っていると思うけど――」


 入ってきたのは白衣の男。昨日少しだけ話したあの教師だった。どうやらここの担任のようだ。何やら雑談をしているが、昴の耳にはあまり入ってこない。何故なら、その教師の視線が先程から何度かこちらに向いているからだった。どのタイミングで紹介するつもりなのか。こちらも機会を窺っていると、漸くその時が来た。


「……でね。彼をもう一度、ちゃんと紹介しなきゃならないんだ。ちょっと前に来て貰えるかい?」


 昴に向けて手招きをする教師。満を持してこの世界に名前を刻む時が来たか、と少しばかり緊張してしまうがゆっくりと立ち上がり、ネクタイを締め直す。階段を降りて壇上まで向かうにも多くの視線。期待の視線という奴だ。応えられる気はしていないが、やるだけやってみるのだ。


「はい、これで書いてね」


 一番下の机よりも少しだけ高い教壇に近付くと、教師は笑顔で昴に何かを手渡してきた。白い固形物。チョークだろうか。


「……っし」


 それを手に受け取り、黒板へ。これはきっと名前を書けという事なのだ。この場に居る全員に認知してもらうために。諸星昴という少年の名前を。腕を挙げ、チョークのような物を押し当てる。そして、勢いに任せて文字を連ねた。

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