第1話「パラレルワールド!?」49

 雑な投球フォームから放たれた小石は一つ。有り余る力に振り回されるように体が揺らぐ。

しかし、今にも転んでしまいそうでも体勢を立て直せる自分に驚きを隠せない昴。今の体勢なら右肩から地面へ激突しても良かったはずだ。

それなのに、体を捻り、足を強く地面に突き刺す勢いで踏み抜いて何事も無かったように立っている。

 空気を切り裂き、かなりの速度で投擲された石が迫っているというのにフェノンはやはり一歩も動こうとはしない。観衆が固唾を飲んで見守る中、直前でようやく動く。右腕を横に。たったそれだけの動作で防げたと言うのか。


「これでもダメ、なのか……!?」


 フェノンの顔が微かに歪むのを昴は見逃さなかったが、それよりも大きな衝撃が起きた。彼が払ったであろう小石。それが凄まじい音と土煙を上げて地面へ衝突したのだ。謂わば爆発音にも似たそれは、小石からは想像も出来ない破壊力で大きなクレーターを作り上げた。

降る砂埃と飛び散った草の一部を頭に被りながら、昴は驚きに口を開けたまま。

未だ燃えるような力が体の奥底から湧き出ており、その破壊力を生み出したであろう自身の右手を見る。驚いた拍子に握っていた物は全て落としたのか、何も無い右手。


「おい何だよこれ……」


 不思議だった。今ならどんな相手にも負ける気はしない。震える体。

その姿を後ろで見守っているレイセス。どうやら彼女は昴が恐怖しているのではないかと心配をしているらしい。小刻みに震えるその背中。かなり手加減したつもりではあったが、それでもまだどこか痛むのだろうかと。


「あの、スバル……?」


 その肩に手を掛けようと伸ばした矢先。土煙の向こうからフェノンが飛び出してくる影が見えた。今から補助をするには時間が足りない。これでは昴に直撃してしまう――


「何だか知らねえが――」


 右腕をゆっくりと挙げる。まるでフェノンの行動を感覚的に分かっているかのような動きだ。昴の右腕が地面と平行に上がった頃、土煙を裂いてフェノンの足が飛び出してきた。地面から足を離し、助走を付けた蹴りだ。しかも常に展開している防御用の障壁もある。防御用と謳ってはいるが、攻撃に用いても当然生半可な威力ではない。


「スバルあぶな――」


 つい自分の顔を手で隠してしまう。当たってしまうところを見たくなかったのだ。いくら今昴が偶然動けていたとしても、直撃は避けられない。肉を打つ音が響く。観衆のどよめきが一層大きくなり、しかしそれは歓声へと変化。どうなっているのだろうと目を開くと、そこには驚きの光景が広がっていた。

 片足だけを大きく上げ、停止したフェノン。そして、それをしたり顔をしながら右手のみで受け止めている昴、という図。これにはこの場に居た誰しもが驚かざるを得ないだろう。得体の知れない編入生が実質トップの生徒の蹴りを止めたのだ。


「こういうの、一回やってみたかったんだよなあ!!」


 左手を、受け止めている足首に。そして力の限り持ち上げる。まるで重さを感じないのはフェノンの体重なのか、それとも。


「っらあ――!!」


 気合の入った掛け声と共に持ち上げたフェノンの体を軽々と投げ飛ばしたのだ。いつもの自分とは比べ物にならない腕力。そして、何でも出来てしまいそうな充足感。この感覚を昴は知っている。


「異世界、楽しいじゃねえか……!」


 そう。久しく忘れていた、戦う事への高揚感だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る