第1話「パラレルワールド!?」27

 聞いた通り、そこは正に資料棟と呼ぶには相応しい場所だった。所狭しと詰め込まれた大量の書物。きっと古い物から新しい物まで入り混じっている事だろう。

学生が知識を得るのにこれほど恵まれた環境は無いのではと思わせる程だ。申し訳程度に窓から覗く陽光が文字を照らしているが、やはり昴には理解出来なかった。


「あんなボロ扉の向こう側ってだけあって静かだな……本当に誰も使わないのか?」


「あぁ、きっと変な噂のせいだろうよ。アタシとしては誰も寄り付かないのは嬉しい事だけどね」


 慣れた動きで積み重なる書物の山の間をすり抜けていくアイリス。その後ろを覚束ない足取りでついて行く昴だったが、しっかりと言葉は耳に入っているみたいだ。


「噂、ねぇ……どうせ得体の知れない何かに遭遇しただとか夜になるとこの紙束が消えるだとか……そんな根も葉もないやつじゃねえの?」


「良く知ってるね? そんなに有名なのかい?」


「……有名っちゃ有名だな。どこの学校にでも似たような不思議現象が語り継がれていくもんだよ。もちろんそんなの――」


言いかけて、止めた。現に不思議現象の多数と遭遇してしまっている昴としては、完全に根も葉もない噂では無くなってしまっていたからだ。勿論あちらでの出来事がそうであったかは分からないが。


「――火のない所に煙は立たないって言うしな。あながちあり得なくもないんじゃないのかなと思うんだよ、うん」


 腕を組みつつ一人で納得する。少しずつでも良いから順応していこうという昴の考えだ。まだまだ不可思議な現象は待ち受けているだろうが、驚いてばかりではいられないと。


「火がなくたって煙は立つぞ?」


「……なんでいきなり俺の知識の外に言及しようとするんだよ……」


「ほら、そういう類の能力を持っているのもいるしな」


「能力、ねえ……」


 早速昴の常識の範疇を超えた単語が飛ぶが、もう驚かない。何せ先程それらしき物を見せ付けられたのだから。

 書物の隙間をかいくぐっていくと、また扉が。今度は木ではなく鉄――のような物――だ。頑丈そうな鍵が侵入を拒んでいる。


「ホントはこの先は一般生徒は立ち入り禁止だけどね。アタシが居れば問題はないよ」


 悪戯っぽい笑みを作り、扉の前に立ちはだかるアイリス。また蹴破るのかと察した昴は半歩下がり、身構える。


「……これを蹴り壊すって言い出したら俺はここの女の子を信じなくなるぜ?」


「まさか。さすがにそんな事はしないよ……ちゃんと鍵を持ち合わせてる」


 スカートのポケットから取り出したのは一本の鍵。光を反射して輝くそれは、何故か少しだけ不思議な感じがした。


「この先こそ、アタシのお気に入りの場所なんだ。ちょっとだけ歩く事にはなるけど……」


 鍵が差し込まれると、重厚な金属音を鳴らしながらゆっくりと扉が開いていく。どうやら扉と鍵は一対で、中でゼンマイか何かと繋がっているのだろう――あくまでも昴の直感だが――。


「ああ、なんだ……階段くらいなら、どうって事ないさ」


 先に続いていたのは白い階段だ。少々長そうだが、お気に入りという程なら行ってみたい。それに、静かな場所を得るというのも昴にとって嬉しい事でもある。

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