【文芸】グループレスで出した小ネタ集

柿木まめ太

目玉が飛んでくる

目玉が飛んできて、目玉を押し退けて、目玉の穴に収まった。

これが具体的にはどういう状況かを説明するよ。

窓の外の暗闇に、突如として小さな浮遊体が浮き上がったんだ。ぼんやりと見える球体は、白かったね。

何事かと思ったものさ。

危険かどうかなど察知しなかった。何かが浮いているからって、人間そうそう注意深くなどなれるもんじゃないと思うんだが、まぁ、それは置いておこうじゃないか。

窓を開けても外は真っ暗闇だ。周囲に街燈なんていう洒落たものはないのさ。で、その真っ暗の中に浮いていたんだ。その球体の中央には光彩があって……ああ、光彩ってのは、ほら、瞳のことだよ。ブラウンの、黒っぽい丸いのが付いていてね。それは向かって正面に、ちょうど球体が真正面を向く位置にあって、白い部分のちょうど中央に付いていた。

目玉だと思ったが、目玉そっくりなだけでそれを目玉と呼んでいいかはよく解からない。

窓を開けてご対面したんだが、じっとこちらを見ていたらしくてね、いきなり向かってきたんだ。

あっ、と叫び声を上げたような気がするな。

右目に違和感を覚えたよ。ぐうぅと押し込まれるような感覚だ、頭の奥のほうがズキィンと痛んだ。いや、おそらく頭じゃなくて、目玉の奥が痛かったんだろう。眼窩の正確な大きさを実感したね。押し込まれた目玉がぐんにゃりと、こう、変形して餅のように眼窩いっぱいに広がったような気がした。

窮屈さの後に破裂した感触があった。

何かの液体が大量に溢れてね、どろりと頬を伝ったんだが、視界そのものは別に何の変化もなかった。

慌てて窓もそのままに鏡へ向かったよ。で、自分の顔を見たら、べったりと右目付近に粘液がくっついていた。

いやはや、何が何だかわからないよ。

目玉が飛んできて、目玉を押し退けて、目玉の穴に収まっただけなんだが。

変な話だろう? 自分でも変な話だと思うよ。

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