第22話

 翌朝。


 創一は繭羽と共に登校して、教室に入った。


「あ、創ちゃんと繭羽ちゃん。おはよー」


 先に教室にいた心陽が、すぐにこちらに気付いて挨拶をしてくる。


「おはよう、心陽」


「おはよう、心陽さん」


 創一と繭羽も挨拶を返す。


「二人揃って登校? 仲良いいね、二人とも」


「ん……たまたま昇降口の所で一緒になっただけだよ」


 創一は繭羽と一緒に登校したことで茶化されては面倒と考え、適当に嘘をついた。


 まさか、自宅のアパートから一緒に登校して来たなんて言える訳がない。


「ふーん……本当? なんだか創ちゃんと繭羽ちゃん、妙に仲が良いから怪しいなぁ……」


 心陽が好奇の視線を向けてくる。


「朝から妙な邪推は勘弁してくれよ……っと、賢治も登校して来たな」


 心陽の追及から話を逸らしたいと考えていたところ、丁度良い時に賢治が教室に入って来た。配布物の束を抱えているところに見るに、どうやら登校して来た訳ではなく、どこかへ行っていたようだ。


「おはよう、賢治。また何かの呼び出しに行っていたのか?」


「ああ、創一……それに神代さんも来ていたのか。おはよう。実はさ、ちょっと鈴木先生に呼び出されていたんだ」


「鈴木先生に? 雑用でも頼まれたのか?」


「まあ、雑用もだけどさ……。なんというか、事情聴取……みたいなものかな」


「……事情聴取? 賢治、何かやったのか?」


「まさか。僕じゃないよ。体育館の大きな姿見があるだろう? あれを割った犯人に心当たりは無いか聞かれていただけだよ」


 創一は思わず顔が引き攣りそうになった。間違いなく、賢治の言う犯人とは繭羽のことだ。繭羽の方を見ると、彼女はまるで初耳と言わんばかりの風を装っているが、どことなく表情全体の動きが硬くなっている。


「え、嘘!? あのでっかい姿見でしょう? いつごろ割られたの?」


 心陽が驚きの声を上げた。


「朝練をしに来た部員が道具を取り出そうとして体育館の扉を開けた時、初めて気付いたらしいんだ。だから……夜中の間に割られたんだと思う。誰か犯人に心当たりは無い?」


「私は特に心当たりは無いなぁ……。創ちゃん達はどう? 何か心当たりはある?」


 心陽が尋ねてくる。


「いや、僕も特に犯人の心当たりは無いな。繭……神代さんは編入したばかりだけれど、何か心当たりはある?」


「いえ、特に無いわ。最近、なんだか物騒な話が多くて、ちょっと怖いわ」


 創一と同様、繭羽も臆面も無く白を切った。そのことに、繭羽と何やら連帯感を感じた。


「そっか。まあ、何か心当たりがあったら、鈴木先生に伝えてよ。……ああ、そうそう。全校集会だけれど、今回は校庭でやるらしいよ。体育館はまだ鏡の破片が飛び散っていて危険らしいし、何か証拠が残っていないか調べる為に現場保存するってさ」


「ふうん……警察とかも来るのか?」


「さあ……どうだろう。単なる生徒の悪戯かもしれないし、そこまでのことはしないんじゃないかな。……っと、色々と仕事があるんだった」


 賢治はそう言うと、抱えている配布物を教卓の上に置いた。


「じゃあ、僕はまだ頼まれ事があるから、これで」


 賢治はそう言うと、足早に教室を出て行く。


「古橋君、忙しないわね」


「学級委員長だから、色々と面倒な雑務を押し付けられやすいからね。それだけ信頼が厚いってことなのかもしれないけれど」


 繭羽と心陽が同情するように呟いた。


 創一は賢治の後ろ姿を見送りながら、今後学級委員を選出する機会があれば、賢治以外の者に票を入れようと思った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る