廃れる

 言葉ってのは使ってなんぼのものですから、使われなくなるとあっという間に廃れます。


 例えば。老いも若きも、トイレに行ってきますと言われれば、それを理解出来ない人はいないでしょう。それが会話の中に出てきても、文章の中に出てきてもね。でも口語としての使用頻度が下がった用語は、文章の中では意味がちゃんと拾えても、会話に使うととんちんかんになることがあるんです。


 先ほどのトイレの例で言えば、便所という用語。今の十代、二十代の方で、便所という言葉を会話でどれくらい使うことがあるでしょう? ほとんどないんじゃないかと。若い人に使われなくなってきた言葉ですから、その世代の人たちの中では、古臭いもしくは汚いというイメージが強化されてしまうんですよね。


『トイレに行く』と『便所に行く』。

 行為は全く同じですよ。でも、どっちが汚く感じますか?


 当然のことながら、今では古語になってしまった『雪隠』『かわや』『はばかり』なんてのは、意味すら分からなくなるわけです。行き先は同じトイレなのに、先ほどの古風な用語を使えば、それは逆に美しく感じてしまうかもしれません。


 そう。言葉には賞味期限があるんです。書き記すという記録用の記号として用いられることで、寿命が延びているとは思いますが、会話に出て来ない限りコミュニケーションツールとしての寿命はどんどん尽きていくでしょうね。

 良し悪しではなく、あくまでも事実としてそういうものなのだということを前提において。ちびっと遊んでみることにいたしましょう。


◇ ◇ ◇


【あながち(強ち)】


「アナ勝ちかあ。やっぱ、有名人ゲットすんのに、女子アナ強いってことかなー」

「でも、それなら勝ちアナって言わん?」

「芸能界って、なんでもひっくり返して言うからー」



【さながら(宛ら)】


「花柄とかドット柄とかは分かるけど、さながらってどんな柄?」

「沙奈って子の柄じゃないの?」

「しらーん。どんな子? 歌手? お笑い系?」



【ようやく(漸く)】


「焼肉屋の言葉かと思ったー」

「よう焼く?」



【みだりに(妄りに)】


「ちゃんと風紀検査パスするかっこで行ったよー」

「それなのに、センセに文句言われたの?」

「ヤバいことをみだらに言うなって」



【すべからく(須く)】


「スペシャルに辛いのかなあ」

「とんがらしの発汗効果で、お肌すべすべってことじゃないの?」



【くしくも(奇しくも)】


「ちょっと、止めてよー! クシにクモなんか付いてたら、一日さいってーの気分!」

「クモの串揚げかもしれないよ?」

「もっといやあああああっ!!」



【しにたい(死に体)】


「なんかあ、校長が吊るし上げられて、ほとんど死にたいって言ってたけど、ウソでしょ。殺しても死なないよ。あの狸じじい」

「激しく同意」



【せいをだす(精を出す)】


「あたしらが清掃活動してたら、どっかのおじいちゃんが来て、精が出るねえって」

「えろじじいっ!! 女から精が出るかあっ!」



【うろおぼえ(空憶え)】


「いや、どう見てもこれは間違いだよ。うるおぼえだよねえ」

「うるう年と同じで、忘れちゃうってことでしょ?」

「え? 記憶売るからだと思ってたけど」

「なあんだ、みんなうるおぼえかあ」



【はなもちならない(鼻持ちならない)】


「なんで、あんなブスが花束渡す役なのー? どう見ても、わたしの役でしょ」

「あんたが、はなもちならなかったんでしょ」

「うきー! 繰り返しゆうなー! 腹たつー!」



【おしまい】

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