②牛島唯→篠原柚月パート「梓は……その、かわいそうなの」
◇キャスト◆
―――――――――――――――――――
放課後の午後四時。
数々の生徒たちは部活動の元へ、 または帰宅する者と別れ、本日も苦しい勉学から解放された
そんな陽の色が
本日より、校外のソフトボール場――笹浦総合公園で練習することが決まったため、どうやら信次は荷物を運ぶための車を、
「なんだ……お前運転できたのかよ?」
すると、重いボールケースを載せた
「大丈夫!! 免許はあるよ……ほら!」
唯は疑うばかり細目を向けていたが、ふと信次から免許証を提示させられる。そこには確かに彼自身の名前と住所、そして顔写真が写っていたが。
「くっ……だっせぇ顔……」
思わず吹いてしまった唯が見た写真には、現在よりも少しふっくらとした、相変わらずの童顔な信次の幼き写真だった。見た目からは
「えぇ!? よく撮れてるはずだぞ!」
「どこがだよ~? これじゃあ
「偽造なんかしてないって!!」
何度も自身の免許証を見直す信次の前で、唯はお腹を抱えるまでに笑っていた。さすがは公認の童顔新米先生だと、威厳も風格も感じない担任がおかしくて仕方ない。
「ハッハハ~!」
――「あの、あたし前から気になってたんですけど……」
「
すると唯は笑みを残したまま、荷台の用具を見つめる一年生――
「ソフトボールの用具って、グローブとボールにバット。それ以外に、何かあるんですか?」
「そう言われれば、確かに……」
それは、同じく未経験者の唯も答えられない設問だった。今日まではジャージ姿で、必要最低限の用具を借りながら活動してきたが、果たして他にも必要不可欠な道具はあるのだろうか。
――「あったりまえよッ!! まだまだたくさんあるんだからァ!!」
そこで菫に怒号で返したのは、現在部の先頭を立つようにしきる二年生――
「てかアンタ! それも知らずに
「き、聞いただけなのに……」
「化け物の
あまりの強い言葉に顔を引きつった菫には凛も、叶恵には聞こえない大きさで呟き、
菫の質問がまったくの素人的発言だと叶恵は思ったようだが、唯も気になる現実ではあるため、耳だけでなく身も向けて説明を吸収する。
「い~い? ソフトボールにはグローブ、ボール、バット以外にもた~っくさん用具があるのよ。スパイクや帽子、ユニフォームだってそうよ!! ねぇ
叶恵は側で観察していたマネージャー――
「確かにね。他には、スライディングのときに足を怪我しないためのサポーター。捕球のときに、手を痛めないための守備用手袋の“シュビテ”。それに打撃用手袋の“バッテ”もある。打撃のときだったら、ヘルメットだって必要よね。それから用具の保存のために、オイルやブラシだって必需品なの」
柚月の詳細な説明には、叶恵も相づちを打ち続けていた。対して菫は、
「結構たくさんあるんですねぇ」
と、眉のハの字を浮かべながら言葉を漏らし、続けて凛も、
「お金も掛かりそう……」
と、荷台の用具たちを恐る恐る覗いていた。
「まあ、ある程度の負担は軽減できるようにするけど、やっぱりいつまでも体育倉庫頼みは、辛いよね~」
困り顔の柚月も両腰に手を置きながら目を置いていたが、事実、現段階のソフト部は体育倉庫の用具を借りている。石灰がこびれ着いたグローブは、磨かれていなくカサカサの状態。ボールも縫い目がほとんどなく、投げる際には
唯も荷台のグローブを一つ手に取ると、続けてきららと美鈴も、それぞれボールとバットを窺う。
「いつかは、自分用のグローブとか、オレは欲しいな~。汚ねぇのばっかじゃ、なんかシラケるし……」
「ボールも全部ツルツルで、正直投げづらいっす……」
「きららも嫌にゃあ~。バットだって、もっとド派手でかわいいやつ欲しいにゃあよ~」
贅沢な不満否めないが、素直な意見だった。
いつかは個人的に所有したいと願った唯は、お気に入りの黒いグローブを握り絞めながら、柚月と叶恵、
「お前ら経験者っていいよなぁ。自分用のグローブが元からあるんだしよ……。ちなみにさ、グローブの金額って、どのくらいすんの?」
唯は経験者の四人にそれぞれ目配せすると、まずは夏蓮が、自身の右利き用茶色グローブを抱きながら答える。
「
「ご、五千で安い、のか……」
確かに夏蓮のグローブは少年少女用の小さなグローブだが、金額を知った唯は思わず固唾を飲み込んで黙視してしまう。五千円もあれば、どれだけプリクラを撮ることができるだろうかと考えながら。
夏蓮の次には咲が、荷台に積まれた右利き黄土色のファーストミットを指差しながら発表する。
「アタシのは一万と少しだね。アタシも小学校のときから使ってるやつだけど、大きくて好きだったから、無理して買っちゃったんだよね!!」
「い、
「ねぇ? そういえば、柚月のキャッチャーミットは?」
唯の表情は強張っていくばかりだが、咲の間髪入れぬ振りに柚月も、右利き用の赤色キャッチャーミットを見ながら
「あ、これは確か~……三つ目だから、一万六千円だったかなぁ……」
「三つ目……。その値段のやつを、他に二つも隠し持ってるのか……」
もはや寒気すら覚えてきた唯は、ついに沈黙を迎えようとしていたときだった。
――「フフフ……アンタたちも、まだまだ甘いわね……」
すると叶恵の不敵な笑みが夏蓮と柚月と咲たちに向かい、仁王立ちで堂々と臨んでいた。
「フフッ。
叶恵は自信満々に叫ぶと、黒光りするまで整ったグローブを、夏蓮たち三人に見せつける。唯も後方からマジマジと覗いてみるが、未経験者でもわかるほど照り輝いていた。
「うわぁ~……すごくきれい……」
「へぇ~。月島さんはちゃんと手入れしてるのね」
「美味しそ~!!」
「食えるかァ~!! もう~どこ見てんのよ!? 中身よ中身! 中身を見てみなさい!!」
夏蓮と柚月の後に、咲のまさかな発言に叫び返した叶恵は、三人の視線をグローブの中身へ送らせる。するとグローブの中身には、金の
「うわっ! 刺繍までしてあるよ~!!」
「へぇ~。オーダーメイドって訳ねぇ~」
「ま、まれ……えっと~……」
「
エヘヘと苦笑う咲を、叶恵は強く睨み苛立っていた。歯軋りまで
――「How wonderful!! 叶恵ちゃん先輩のグローブも、order madeナノデスネ!!」
不思議がる唯のそばには、高まる気持ちで金髪ツインテールを靡かせるメイが現れた。ただでさえ綺麗なサファイアの瞳も、キラキラと星の数が増している。
「お、オーダーメイドって、なに?」
「order made!! 見た目や形を、自分の思うままに作られたもので、店頭にはない唯一無二のgloveデス。要するに、自分専用のために存在した、世界に一つだけのgloveデスネ!! number oneよりonly oneということナノデス!!」
「……スポーツって、ナンバーワン目指すもんなんじゃねぇの……」
高鳴るばかりの小さなメイに、唯は呆れて見下ろしてしまう。しかし、喜ばしいサファイアの瞳には叶恵の目も交差したことで、
「その通り!!」
と頷き、あるのか無いのか、もしや凹んでいるのか見当が着かない胸を張っていた。
「……で、お前のその、オーダーメイドって、いくらなんだ……?」
「まぁ~、だいたい三万ってとこかしらねぇ~」
「さ、
思わず叫んでしまった唯は、ついに凍りついた。たった一つの道具に、三万円もの多額な費用が掛かるとは。要はこのグローブ一つに、母子家庭である牛島家の家賃一ヶ月分が込められているのだと、徐々に恐怖の念まで誕生していた。
『マジ、か~……。あんなの、オレにはぜってぇ買えねぇよ……。もしかして、ソフトボールの道具って他も高かったりすんの~……?』
安くても夏蓮の五千円からのスタートだった。ましてや子ども用の。それに用具はグローブだけに留まらず、ボールにバット、他にも柚月が説明した多種も存在する。
全てを集めたとして、そのときの合計金額はどの値を示すのだろうか?
無論、考えたくもないホラー的未来だった。もしかしたら、とんでもない部に入ってしまったのかもしれないと思えるほどに。
『入ったは良いけど、これから先、オレはやっていけんのか……?』
これから本格化していく笹二ソフト部を、続けていけるのだろうか?
母子家庭となった今は正直言って、裕福な生活など送れていない。毎月の水道光熱費を懸念しながら過ごす日々で、質素に身を捧げている。もちろんゲームセンターにも行かなくなった。母親がパート労働で何とか生活できてる現状で、そんな余裕など無いのだから。
不安でついに声も出せなくなった唯には、叶恵から得意気な笑い声を受けることになる。
「それが真の自分専用っていう意味よ。まぁ、オーダーメイドまでするのは、きっと
「……Me too!! ワタクシもですよ!! 叶恵ちゃん先輩!!」
しかし、叶恵の言葉尻を被せたメイが最後に、自身の青い右利き内野用グローブを指差す。するとグローブの親指部分には、赤色の刺繍で『May☆C☆Alphard』と、
「そ、そう……。てか叶恵ちゃん先輩って、なに気安く“ちゃん”付けで呼んでんのよ!?」
「It's priceless!!
「は、はぁ?」
「ちなみにワタクシのgloveは、ママに買ってもらった思い出の一品ナノデス!!」
「――確か三百ドルだったノデ、yenにすると、だいたい三万五千yenデスネ!!」
「さ、三万五千……」
メイのグローブの値段を聞いた叶恵は、自身より上の値段を聞いたためか、ポツンと押し黙ってしまう。心の中で猛吹雪が巻き起こっているかのように、立ち固まっていた。
メイに対する驚きは、経験者の夏蓮を始め柚月や咲、彼女と同級生の菫と凛も反応していた。が、その一方で唯と美鈴ときららの三人は、得意気から沈黙した叶恵を見ていたため、口から溢れそうな笑いを手で押さえていた。
「へへ。アイツ、あんな偉そうに言ってたのに、負けてやんの」
「しかも年下に負けたっす」
「バッタモンにゃあ」
「だ、ドゥアァ~レのがバッタモンじゃアア゛ァァ~~!!」
やはり叶恵の耳には届いてしまったようで、唯たち三人は
「へへッ! だって事実じゃんかよ~!」
「元はと言えば、アンタがグローブの金額なんか聞いたからでしょうがァ~!!」
きららと美鈴と共に逃走する唯の背中には、叶恵の怒鳴り声が何度もぶつかる。なかなか
しかし、唯は楽しかった。
だからこそ、笑顔のまま逃げ続けてしまった。きららと美鈴と、揃っていっしょに。
グローブの金額を聞いたときは、正直驚いた。いつかは購入するであろうソフトボール用具が、想像を超えた高級品だと知ったのだ。
しかし、今はその不安も頭から遠く離れていた。
なぜなら、楽しかったからだ。
きららと美鈴以外に、親友とまではいかないが、相手にしてくれる仲間が増えた気がしたのだから。
『――ゴメン、
親友のきららと、大切な後輩の美鈴が、そばにいてくれるから。また、愉快な時間を送らせてくれる、おもしろい仲間がいるのだから。
真っ直ぐに続けたいと思える、金銭面よりも大切な物を見つけてしまったから。
その後、唯たち三人衆と叶恵の追跡劇は長く続き、笹浦総合公園への出発時刻が遅れてしまった。
◇みんなのキャプテン――栄光の扉、開くとき◆
荷物を積んでから二十分後。
笹二ソフト部員たちは
その一方でマネージャーの柚月は、医師から運動を控えるよう告げられているため、軽トラックの助手席で発車を待っていた。乗り込んだ際にはきららから、
「ニャア゛~ユズポンめぇ~! きららの信次くんに何かしたら、絶対に許さないからにゃあ!!」
と、恋乙女の
「ヨシッ!! じゃあボクたちも出発しよう!」
部員みんなが走って消えた頃、信次が得意の笑顔で運転席に登場した。柚月と同時にシートベルトを着け、早速アクセルを踏み始めるが。
「……あれ? おかしいなぁ……」
「どうしたのよ? まさか故障?」
「いや~そんなことはないはず、なんだけど~……」
車のエンジン音が高鳴るが、一ミリも進まなかった。
心配の気持ちが増す柚月は眉間の
「ゴメンゴメン!! ブレーキ解除してなかったっけ!」
「え……」
信次が柚月との間にあるチェンジレバーを“P”から“D”の位置に替えると、車はやっと動き始めた。どうやらブレーキの存在を忘れていたらしい。運転免許を持っているにも関わらず。
「ほら、何てことない!! さぁ出発だぁ!」
「ねぇ神様、どうか交通事故だけは……」
窓越しからオレンジになりかけの空を仰ぎながら、柚月は両手を合わせて願掛けした。
二人が乗った軽トラックはゆっくりと校門から出て、目的地へ繋がる大通りに進入する。
頬杖を付いた柚月は、普段から見慣れた窓の景色を眺めるばかりで、車内は一時の沈黙を迎えていた。春の夕焼けが訪れる空は晴れ渡っているが、窓に反射した顔色は真逆であることが
「……こうやって、篠原と二人きりになるのは始めてだね」
すると信次は慣れていない様子のハンドル操作で呟き、柚月の表情を更に曇らせる。
「あのさ~、変なこと言わないでくれる? また植本さんに疑われるでしょ? とにかく今は、運転に集中しなさいよ」
「か、かしこまりました!」
前のめりで運転する信次の姿まで窓に浮かび、柚月は大きなため息を吹きつける。
『でも、先生が言ったことは間違いないかな。
緩やかに流れる景観を観察しながら、柚月はそう脳裏で語ってた。思い返せば、担任になった信次との一対一の会話は、今の今まで無かった。いつも夏蓮が間にいた気がし、言わば架け橋的な役割を果たしていたように感じる。
先生と初めて出会ったときも、運動不可の自分が入部したときも、また後に入部してきた仲間たちと向かい合うときも、親友はそばにいてくれた。
『あの、シャイでドジな夏蓮が、か……フフッ』
「……ありがとね、篠原」
「え?」
夏蓮を思い出し笑みを溢す
「篠原がみんなに指導してくれるから、みんな少しずつ上手くなっている気がするんだ。だから顧問として、ボクは篠原に感謝してるよ。ありがと」
「な、なによ? いきなり……気色ワル~」
柚月は苦笑いも浮かべられずそっぽを向き、元の外観観察に戻ってしまう。しかし笹二ソフト部の練習では、主に叶恵がチームを引っ張っている中、要所要所でみんなにアドバイスを送っているのは、マネージャーの篠原柚月自身だ。ボールの投げ方や捕り方、バッティングの正しいスイングや細かいポイントまで。経験者として培った豊富な経験と知識を、部内の誰よりも駆使している。少し鋭利に富んだ指摘も、多々加わることがあるが。
「こんな頼もしいマネージャーはいないよ。少なくとも、素人顧問のボクは大助かりだ!」
そんな柚月のおかげで部員のみんなは上手くなっていると、常に練習を見ている信次は感じていたようだ。
「あ、
「ハハハ! ……そういえば、話が変わるんだけどさ……」
すると赤信号で停止したと同時に、柚月は窓に映る信次から目を向けられる。
「最近の
「――っ! ……どうして、
突如信次の口から出た親友――
「最近の舞園ってさ、常に
信次は相変わらずのにこやかさを保ちながら、目の前の信号を待ちわび続けていた。柚月の視界からは外れた、止まれを意味する赤信号を。
「舞園が、今どう思っているのか。お節介かもしれないけど、担任として
「梓は……その、かわいそうなの」
「か、かわいそう?」
迷いの間を空けた柚月はジャージの膝をギュッと握り締めながら、
「――梓にはね、トラウマがあるの……」
「トラ、ウマ……?」
信次の微笑みが消え去った瞬間を、下を向く柚月は声のトーンから察した。梓の話をすれば、嫌な空気が舞い込むことなど
「……小学五年生のとき、梓は相手バッターにデッドボールを与えちゃったの。それも、頭に。ヘルメットが割れるほどの、全力ストレートで……。それがきっかけで、投げられなくなっちゃって……辞めちゃったの……」
「そうか……。舞園に、そんなことがあったんだね……」
暗いままで顔を上げられない柚月に、信次も車と似た重低音で返していた。
こうして信次に話すことは初めてだ。梓に関係する六年前の事故など、柚月は部員にだって教えたことがない。他に知ってる者を挙げるとすれば、当時同じチームだった夏蓮と咲の二人だけのはずだ。
――梓が、投球恐怖症であることを。
担任であり顧問でもある信次には、いつかは話す機会が訪れると予想していたが、やはり後の息苦しさが胸中に残る。辛すぎて、涙腺も緩みやしない。ここまで眺めてきた景色にも見向きせず、柚月の背はシートベルトに抵抗するように丸まっていた。
「でもボクは、舞園は復活してくれると思うよ?」
「え……。ど、どうして……?」
希望めいた台詞を放った素人顧問に目を移すと、柚月には、陽が射す前方を向く信次の横顔が覗けた。
なぜ信次がそんな事が言えるのか、不思議でならなかった。彼だって梓の過去など詳しく知らないはずなのに。
しかし、柚月にとって担任であり顧問である信次には、すでに心に秘めた想いを見透かされていたようだ。
「――大切な親友たちが、待ってくれているから。部を立ち上げた清水に、転部まで決意した中島が、待ってくれている。試合ができなくても入部した篠原だって、その内の一人でしょ?」
「――っ!」
柚月が息を飲まされてから数秒後、やっと信号が青へと換わり、軽トラックが再発進する。ウィンカーを出す行動までぎこちなさが見受けられるが、確かに目的地には向かっていた。
『あれ……? いつからだろ? 梓を待つようになった、
道中には小学生たちの楽しげな下校姿も映る中で、
“「――
夏蓮がそう呟いた当初では、梓の復帰など無理だと考えていた。あり得ないと怒鳴ったくらいだ。親友として無責任だと罵声を挙げたことだって、つい最近である。
『そっか……。咲がソフト部に来てからだ。
元チームメイトと言える部員は、
だからこそ今では、最初とはまったく逆の立場にいるのかもしれない。投球恐怖症になってしまった梓を、大好きな先輩の
『――そっか……。
ドクターストップを掛けられている身なのに、嫌な現実を無視した感情論だ。しかし同時に、それが率直な気持ちであることに間違いなかった。なぜなら、心抱く人は元より、感情で行動してきた生き物なのだから。
いつしか自分は変わっていたのだと気づいた柚月は、窓に反射された自分自身に向けて、呆れて笑い吹いてしまった。親友の夏蓮に怒鳴り付けたほど諦めてた自分が、何とも弱々しく思えたために。
「……ねぇ、先生?」
「ん?」
「
最初は夏蓮の一言から始まり、後に嘆願した彼女の勇気を、信次が見捨てなかったからこそ今があるのだ。嫌いな男だとはいえ、感謝を申し上げるのが乙女の義理だろう。
「篠原……」
「だから、これからもよろしくね、せ~んせい」
「……うん! 任せなさい!!」
「それと、先生?」
「ん!?」
「もう少し、速度上げた方がいいんじゃない?」
「ホェ……?」
笑顔な柚月は、軽トラックのドアに設置されたバックミラーを見ながら告げた。なぜならバックミラーには、背後に車が何台も並び、信次の車を先頭に渋滞が発生していたからだ。しかし、六十キロ制限の大通りを三十キロ未満のスピードで走行していたため、無理もない後ろ景色だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます