上毛新聞誤報伝―火事顛末記の1―

山の下馳夫

第1話 世紀の誤報(我が家にとっては)

 仕事の関係で千葉県千葉市にいた私は、懇意にする母方の大叔母から連絡をうけて、始めて実家が火事にあったのを知った。2016年1月9日(土曜日)午後5時53分のことだった。


 実家がのは群馬県富岡市、『富岡製糸場と絹産業遺産群』が世界遺産として登録されたことで、大きく知名度を上げた自治体であるが、住んでこの方治安が良いと思ったことはない。しかし、大工をしていた祖父が中心となって建てた我が家は、私にとって過ごし易く、進学や就職で他所に移り住んでからも、帰省することは多かった。


 隣の家が営む町工場からの貰い火は、古い木造二階建てを焼き尽くし、火事発生当時一人家にいた父が持ち出した、母方の先祖の位牌と父の仕事道具以外の全てのものを奪い去った。不幸中の幸い(まさしくこの時のためにあるような言葉だが)だったのは、火事が侵したのが物質のみであったことだろう。父と出かけていた母には一切ケガはなかった。


 一切謝罪を行わず被害者面をして切り抜けようとするとなりの工場の住民に、両親も兄も私も怒りを通り越して呆れ果てたものだが、生活を立て直すためと割り切って後ろ向きなことは考えないようにした。特にこの傾向は母に顕著で、私が燃えた蔵書のことを言うと、そんなことは考えるなと叱られたくらいだった。


 しかしながら、2月13日、上毛じょうもう新聞朝刊に記された明らかな誤報により、母のこの前向きな方針は180度の転換を余儀なくされる。

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