僕とかぞく
僕は長男なので「太郎」という名だ。妹は「さくら」、猫は「ミー子」。
お父さんとお母さんといっしょにくらしている。
僕が三歳になったころ妹ができた。
妹はさくら、春に生まれたからだ。
赤ん坊のころはよく泣く子で、僕もよくおもりをしたものだ。
お昼寝の時は僕が横で一緒に寝てやると、安心したのか不思議と寝つきがよかった。
よく赤ん坊はミルクの臭いがする、というが何かほんわりしたやさしい臭いがしたことをおぼえている。
もう一匹、妹同然にかわいがっている猫のミー子。
ミー子はさくらが二つになったころ、庭でないていた子猫だった。
僕がお母さんに知らせると、困った顔をした。
僕とさくらで手がいっぱい、引きとってくれるところをさがしましょう、というお母さんだったが、さくらはミー子のそばを離れない。
するとお父さんとお母さんも根負けして飼ってもいいよ、といってくれた。
こうしてミー子も、いっしょに暮らすことになった。
いたずら好きのミー子とさくらのおもりは大変だった。
目をはなすといっしょになって、すぐに部屋じゅうをちらかしてしまう。
僕はミー子のいたずらがすぎて、お母さんにおこられて捨てられてしまったらと思い、おこったり寝かしつけたりあそび相手になったり。
こんなさわぎはさくらが小学生になるまでつづいた。
季節の流れはあっという間でいろいろなことがおきる。
さくらがピアノのえんそう会で賞をとったり、
ミー子がはじめてせみをつかまえたり、
お父さんがおおきな魚をつったり、
僕が道でぐあいがわるくなっているおばあさんをみつけてしらせたり、
みんながほめてくれてうれしかったり、
お母さんがびょうきになって入院したり、
さくらが僕にだきついて泣いたり、
ミー子も一晩じゅうないて寝なかったり、
やっと退院してうれしかったり、
みんなで車でキャンプにいったり、
ミー子がまいごになったり、
キャンプ場のすみで僕がやっとミー子をみつけたり、
そして、
しあわせに時がすぎて、
おなじように、春、夏、秋、冬、がめぐるけれど、
みんなすこしずつかわっていく。
ミー子がとつぜんいなくなったのは、さくらが十歳のときだった。
僕もさくらもいっしょうけんめいミー子をさがしたけど見つからなかった。
かなしむ僕とさくらにお父さんがいった。
「ミー子はみんなとお別れするのがつらくて一人で出て行ったんだ」
さくらはかなしくて、お父さんにおこった。
「ミー子はだまっていなくなるような子じゃないもん」
でも、ミー子はかえってこなかったのだ。
僕もいつか、さくらやお父さん、お母さんとおわかれするのだろうか。
そのごもうれしいことやたのしいことがたくさんあった。
さくらは、小学校を卒業し中学生になった。
お父さんもお母さんもとてもよろこんだけど、お母さんはまた入院してしまい、ずっと帰ってこない。
お母さんがいないと家はとてもさびしくなってしまう。
僕もいっしょうけんめいさくらとあそんだ。
でも、さくらはときどき泣いていたように思う。
そして、僕はだんだんうごけなくなった。
ここしばらく、僕はごはんをたべなくなり眠ることがおおくなった。
今、いつのまにか僕よりおおきくなったさくらのひざに頭をのせて、
うとうとしている。
「もう、太郎も十五歳だものな」
お父さんがつぶやくと、さくらもうなづく。
また泣いているのだろうか。
僕はなぐさめようと尻尾をふろうとしたが、もう動かなかった。
さっきから、いろんな思い出を夢のように見ている。
久しぶりに、ミー子やお母さんのことを思い出した。
おおきくなったさくらは少しお母さんみたいだった。
なんだかとても眠い。
眠る……眠る。
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