ショートショート集『威光』

印度林檎之介

威光

シンバの村の中央の広場には、守り神がいた。


それはただ大きく、真っ黒で何物にも似ていない。


昔、爺さんが生まれる前、村人達が寝ている間に突然現われ、ずっとそのままそこにいるのだ。


言い伝えによると、神はずっと眠っているのだそうだ。年に一度の祭りの際は神を起こそうとする儀式もある。聖なる棒で神をたたくのだ。だが、神は決して起きない。


シンバの村の神を恐れて、周辺の部族もシンバの村にだけは一目置いている。その為、シンバの村は神が現われて以来ずっと平和だった。


ところがある日、ついに隣村の部族が卑怯にも白人のハンター達を味方にして村に攻めてきた。白人の銃の前に次々と倒れる村人達。追い詰められた村人達は、神を頼って広場に集まってくる。


シンバは神を起こそうと必死に棒で神をたたいた。涙ながらに、祈りの言葉を叫びながら。


そこへ村人を追ってきた白人達が現われた。ところが、シンバと神を見るなり、あわてて逃げ出したのである。頼りにしていた白人の退却に狼狽した隣村の部族は神のあまりの威光にパニックに陥り、あるものは逃げ出し、あるものはシンバの村の神に土下座して許しを請うのであった。


こうしてシンバの村は救われた。



シンバの村の神とは

先の大戦で落とされた、10トン爆弾の不発弾であった。

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