アベンジャーズ・クエスト
NEO
第1話:始まり
ほんの小さなイタズラのつもりだった。
村の門を操作する機械に、ちょっと仕掛けをしただけだった
まさか、こんな事になるなんて……。
村の中央にある広場では、幼なじみのカシムが懸命に戦っている。
しかし、魔物の数が多い。
カシムの剣が届かないところで、村人が一人魔物に殺される。
私は何も出来ない。体が動かない……。
★★★
夏の朝早く、私は幼なじみのカシムとともに村の裏山に来ていた。
理由は簡単。私は魔法の練習。カシムは剣の鍛錬だ。
「おーい、ラシル。少し休憩しようぜ」
片手剣を鞘に戻し、カシムがそう声をかけてきた。
「そうね。ちょっと疲れたし」
私はそっと笑みを送ってやる。
実際、まだ夜明け前からここに来て、こうしてずっと練習に励んでいたのである。さすがに私も疲れた。
適当な木の切り株に腰を下ろし、水筒から水を飲む。
「で、どうだい。魔法の調子は?」
いつの間にか近くにきたのか、カシムがそう言って私の頭をポンと叩いた。
「そっちこそどうなの?」
私は逆に聞き返した。
「そうだなぁ。まぁまぁってところだな」
「じゃあ、私も同じくらいよ」
そう言って、二人顔を見合わせて笑う。
「さて、もうちょっと頑張るか……って、なんだあれ?」
カシムが声を改めて指を差す。
「ん?」
私はその指し示された方を見た。
すると、そこには尋常ではない量の煙が立ち上っているのが見えた。
「おい、あれ村の方角だよな?」
「ええ、そうね……」
間抜けな話だが、私たちは一瞬顔を見合わせてしまった。
そして……。
「どう考えても、普通じゃねぇ。急ぐぞ!!」
「分かってる!!」
私たちは脱兎のごとく山道を下り始めた。
しかし、ここから村までは結構な距離がある。
私たちが村にたどり着いた時には……全てが終わっていた。
完全に破壊された家々。そして、おびただしい数の死体。
「くそっ、またか!!」
カシムが一人毒づく。
「……埋葬しましょう。今の私たちが、せめて出来る事よ」
そう言って、私は魔法で大きな穴を掘った。
「なんでそんな冷静なんだよ。だから……」
そこでカシムが言いよどんだ。
「『魔女』ラシルね。いいの。分かってる。数年前の事件を引き起こしたのも私だし」
私は無理矢理、笑顔を浮かべた。
「すまん。そんなつもりじゃなかったんだ……。分かった、とにかく埋葬しよう」
冷静さを取り戻したらしいカシムと私で、死体を丁寧に穴に入れて行く。
今この瞬間、私たちの生まれ故郷であるアリエの村が消滅したことを噛みしめながら。
「……さて、これで全員だな」
最後の一人を穴に入れてから、カシムがそう呟く。
私は無言で魔法を使い、穴の上に土を被せた。
「……さて、どうしよっか。村はなくなっちゃったし」
私はわざと明るい声でそう言った。
「……決まってるだろ。あのくそったれの『ヒューム・ストリングス』を叩き潰す!!」
「そう言うと思ったわ」
私はそう言って小さく笑った。
『ヒューム・ストリングス』。別名『魔の使い』。
世界のどこかに巣くい、数々の魔物を生み出しているとされる諸悪の根源である。
「当たり前だろ。いつまでも『欠けた王冠』なんて言わせるか」
カシムのフルネームはカシム・クラウン。
そこでついたあだ名が『欠けた王冠』である。
あっ、ちなみに私はラシル・ロータスね。
「それじゃ、私もご一緒しますか。魔法無しじゃキツいわよ」
口調こそ軽くしているが、実はかなり本気で『ヒューム・ストリングス』を屠るつもりである。
いつまでもこんな不条理な死を認めるつもりはない。
「お前、本気で言っているのか?」
カシムが聞いてきた。
「冗談ならもっとマシなの考えるわよ。ほら、さっそく出発よ」
戸惑うカシムを尻目に、私は街道にむかっていったのだった。
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