第3話 アメリア・ベルンシュタイン殺害事件
エルマー・ベルンシュタインは、ブレーメンで複数の工場を経営する資産家であった。彼の妻アメリアと結婚したのは彼が45歳の時であった。親子ほど年の離れた二人であったが、その夫婦生活は誰の目で見ても仲睦まじいものであった。そんな二人を突然悲劇が襲った。
結婚して、五年目の春。何者かによって妻は買い物に行くといったまま帰宅せず、警察に捜索願を出してから1週間後、妻アメリアは変わり果てた姿で帰ってきた。
発見場所はベルンシュタイン低から2キロほど離れた森の中で、首を絞められ殺害されたのであった。
同じころ、同一犯人とみられる犯行が2件立て続けに起き、警察は連続殺人犯による無差別殺人として捜査をしたが、事件発生から3か月。手がかりになるようなものは何もつかめていない。
「最初の事件、アメリア・ベルンシュタイン殺害事件に関しては、顔見知りの犯行である可能性が高いと思う」
ブレーメン警察のベーレンドルフ刑事は、煙草をふかしながら事件のファイルを眺めていた。
「顔見知りの犯行というと、夫のエルマー氏も含まれるのかな?」
電話口の相手の声に、ベーレンドルフ刑事は不機嫌そうに答えた。
「あー、そうだ。もちろん真っ先に疑ったさ。しかし、ガードが固くてな。周りの人間の証言もある。アリバイはあるが、こいつがどうにも信用ならない」
「あれほどの資産家ですからね。金と権力でつじつまをあわせるとか……」
「あー、ほかの二件の手口は実際、プロの犯行だと俺は睨んでいる」
「それじゃぁ、一件目の犯行は?」
「後始末をしたのはプロの犯行だ。しかし、最初に殺したのはそうじゃない。よくある話だ。かーっとなって、首を絞め、気づいたら息絶えていた……みたいなことさ」
「そこまでわかっていて、ずいぶんと苦労しているようだね」
「でぇ、なんだってお前さんが、人形使いのダミアンが、こんな事件に首を突っ込むんだ」
「実は依頼を受けてね。ベルンシュタイン卿に」
「依頼って、まさか、人形をか!」
「そう。夫人のオートマタを頼まれた」
「おい、まさかあれをやるのか」
「墓荒しは重大な罪だけれど、この際は仕方がないかなぁって」
ベーレンドルフ刑事は煙草を灰皿に押し付けて消そうとしたが、吸殻がたまりすぎていて、思うように消せなかった
「あー、畜生!」
「そんな言い方は酷いじゃありませんか」
「あー、違う。こっちの話だ」
「まぁ、褒められたことではありませんからね。警察に顧客の情報を売るなんて、商売人としては失格です」
「でっ、いつだ?」
「あと30分ほどで始まります」
「なにー! 30分だ!」
ベーレンドルフ刑事は、後ろの壁にかけてある時計を振り返ろうとしたが、電話線が邪魔をしてみることができない。仕方がなく、首を後ろにそらしてさかさまの状態で時計をみた。
「今、えーっと、3時半、いや、4時半か」
「ぎりぎりですね」
「今からそっちにいくから、余計なマネをするんじゃねーぞ」
「急いでくださいよ。鍵は開けておきますから。壊さないでくださいね」
「ちぃっ! 悪魔が!」
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