第140話 最終決戦:七条歩 VS 一ノ瀬詩織 2
詩織から爆発的な粒子が溢れ出る。黄金に輝くそれは、さらに勢いを増していく。
それを見て、歩もクオリアを発動する。
「……クオリア」
(クオリア、解除プロセス進行。第一の制御、解放。第二の制御、解放。第三の制御、解放。クオリアへ……完全到達。クオリア完全解放、完了。クオリア、アクセス権を実行。全ての制御を完全開放……完了。思考制御、問題なし。身体への影響も問題なし。すべての創造過程終了)
歩と詩織の発した粒子が一気に互いの体に収束すると、二人の姿は変態を遂げていた。
すでに世界に認知されてる現象。クオリア。それはクリエイターの意識の根幹であり、全ての源。
変貌した二人の姿は以前の比ではない。
色素は完全に落ちきっており、その双眸も金ではなく真っ白に染まりきっていた。これはクオリアネットワークの影響もあり、二人は本当のクオリアに達しているのだ。
完全到達者による戦闘。
それはもはや、戦闘と形容していいのか。
そして、詩織は自身の体の状態を確かめるように自分の肢体を見つめる。
「……久しぶりだけど、あの時と感覚は同じみたい」
「……世界大会の覇者と戦えて光栄ですよ、詩織さん」
「そう? そうよね? ふふっ。あは、アハハハハハハハハアアアアアアアアアアアアアアアハハハハハハハッハッハハアハハハハハハハハアアアアアアアアアアアアアアアハハハハハハハッハッハハアハハハハアアアアアアアハハハハハハハハハハハハッハハハハハハハッハハハアアアアアアアアアアアアハハハハハハハッハッハハアハハハハハハハハアアアアアアアアアアアアアアアハハハハハハハッハッハハ」
奇声にも近い叫び。
彼女は歓喜していた。やっとだ、やっとこの時が来た。この日をどれだけ夢見て来ただろう。
この立会いをずっとイメージしていた。そして、この先どうするかも、もう決めてある。
日本刀を横にスッと薙ぐと同時に、彼女は囁く。
「――
詩織は、六花を発動。それは昨年の大会でも使っている。だからこそ、対策も完璧だと……そう歩は思っていた。だというのに、これはなんだと思ってしまう。
(クオリア獲得に伴って、六花も変化しているのか)
そう予測を立て、まずは心を落ち着かせる。ここからが重要。ここから先の戦いで生き死にが決まる。一つのミスでも命取り。世界を制した彼女の実力は決して、伊達ではない。たとえそれが、別の人間の体だとしても。
元来、CVAとVAは心身とリンクしていると考えられていた。今もその学説は覆ってはいない。だがしかし、CVAとVAが心身ともに別の人格に入れ替わるなんてことを実験したものはいない。
歩は確かに、体は倉内楓なのだから、彼女の持ちうる技しか来ないと思っていたが修正する。その能力はわずかにだが、詩織のものに修正されつつある。いや、侵食といった方がいいだろうか。
「――弾けろ」
フワフワと浮いている白百合の花々は、彼女の声を合図にして突然炸裂する。
「……うッ!!??」
彼は思わず、目を閉じる。そう、白百合の花々は炸裂すると共に直視できないほどの閃光を放ったのだ。
どれだけ強くなろうと、眼球から入る光の量を意識して調整することはできない。たとえそれが、クオリアに至っていようとも。
歩は一瞬、ほんの一瞬だがその場に釘付けになってしまった。もちろん、その隙を詩織が見逃すわけはない。
「――
詩織はすかさず、
たかが目くらまし。しかし、されど目くらまし。効果的なのは間違いはない。歩は自分の未熟さを呪いながら、眼前に迫り来る殺気になんとか対応しようとする。
「くそッ!!
歩の得意とする視覚系のVAは封じられた。ならば、視覚以外の感覚を使えばいい。そう判断して、彼は感知系VAである
だが、その練度はまだ未熟。完璧な
「……ぐうッ!!!」
鮮血。
右腕の皮膚が綺麗に裂かれ、そこから鮮血が飛び出す。パックリと開かれたそれはもう閉じることはない。さらに勢いよく溢れる血はとどまることを知らない。
もちろん、そこで終わる詩織ではない。彼女はさらに追撃をかける。だが、歩もまたこんな所で終わる器ではない。
彼は意を決して、LAの発動を試みる。
(この段階で
一瞬の思考でそう判断すると、彼は右手を横にスッと薙いだ。
詩織はその腕の振りを見て悟る。これは
歩は劣勢の中でも、攻撃することをやめなかった。それが功を奏したのか、詩織は防御に回らざるを得なく、日本刀で防御の姿勢を作る。
キイイィィィィィィイイン、と金属同士がぶつかって反響する音が生じる。
そう、歩の右手には華澄との試合で使用したLA、村雨丸が握られていた。
「……
「……ちッ!!!」
詩織は思わず舌打ちをして後ろへ、後ろへと向かう。歩が発動した
その質量はすでに万を超える。
ここまでしなければダメージは与えられない。そう考えて、歩は雄叫びをあげて詩織を殺しにかかる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
先ほど切り裂かれた場所だけでなく、皮膚が裂け、眼球からも出血。自壊するのも厭わない。ここで押さなければ勝ちはない。そうして、全ての攻撃が詩織を襲った。
何分経っただろうか、万にも及ぶ劔の舞いは彼女に降り注いでいった。もちろん、観客たちはそれを黙って見つめていた。騒ぐことなどできない。だってそれは、確実に死をもたらすものだと思ったからだ。
あんな、あれほどの攻撃を受けて生きているわけがない。
そう思っていた矢先、晴れた霧から血塗れの詩織が顔を出す。
「あは。あはははは。アハハハッッッハッハッハハハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアハハハハハハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアハハハハハハハハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハアアアアアアアアアアアハハハハハ。うふ、うふふ。最高だよ、歩くん。こんなに心踊る戦いは、世界大会でも得られなかった。あなただけが私を満たしてくれる。最高だよぉ。歩くぅん……」
愛でるような、媚びるような、艶のあるような、色のあるような、そんな声で囁く詩織。その目はすでに正気ではない。
そして、歩もまたもう正気の意識にはいない。
互いにすでに狂気の底に沈んでいる。
だが、彼は諦めない。あれほどの攻撃をどうやって防いだのか、すぐさま分析に入る。
(焦げ跡? やはり……六花で防いだのか)
彼女が発動していたのは、六花:二ノ花、鈴蘭。詩織の六花にはあいにく、防御系のものはない。しかし、鈴蘭は広範囲に爆裂をもたらすことができる。詩織はそれを利用して、自身の剣と鈴蘭の爆裂だけで今の攻撃を防いだのだ。もちろん、
もう憎しみや、愛情などという感情とは無縁だった。
ただただ、楽しい。心が躍る。それだけ、それだけだった。
「……さぁ、もっと私を楽しませて?」
そう
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